第24話 ロシュの仲間がやってきました

「勝てないのじゃあ!!」


 自称魔王ロシュはゲームで150連敗して再び叫んだ。この叫び声ももう150回目だ。絶望的に弱いのだ、この魔王、ゲームが。下手すぎて全く練習にならない。しかもそろそろ寝たいのにロシュが体力を有り余らせているせいでなかなか寝させてくれない。


「……流石にそろそろ寝たいんだけど。もう深夜4時だぞ」

「まだじゃ! 最後の一戦なのじゃ!」

「最後の一戦が既に30戦くらい続いてるんだけど……」


 流石に疲れてきていたところに、突然インターフォンが鳴った。こんな時間に何の用だろう? レイナたちは流石にこの時間に来ることはないだろうし。それとも急用とかだろうか?


 そう思ってディスプレイを見に行くと魔族風のお姉さんが立っていた。ようやく保護者が来てくれたのか?


「見えないのじゃ! 見えないのじゃ!」


 ちなみにロシュはインターフォンが身長的に見れずにピョンピョンと跳ねていた。うん、とりあえず放置しとこう。


「は〜い、今出ます!」


 俺はスピーカー越しにそれだけ言うと玄関に向かった。すると見るのを諦めたロシュは俺の後ろからチョコチョコとついてきてひたすらに聞いてきた。


「誰が来たのじゃ? 妾、人見知りだからちゃんと仲介してくれないと困るのじゃ。ちゃんと会話を回して欲しいのじゃ」


 ……どうやらロシュは来たのが俺の知り合いだと勘違いしているみたいだ。おそらくディスプレイに映っていたのはロシュの方の知り合いだろう。魔族っぽい雰囲気だったし。ツノも生えていたからな。間違いない。しかしわざわざそれを伝える必要もないと思ったので、俺は黙って玄関まで辿り着くと扉を開けた。


「……って、げっ。サーラなのじゃ」


 玄関前に立っていた女性を見てロシュが苦虫を噛み潰したような顔になった。やっぱりロシュの知り合いだったか。サーラと呼ばれた女性は冷たい視線でロシュを見下ろすと言った。


「——ロシュ様。また人族に迷惑をかけた挙句、私たちにその尻拭いをさせるつもりですか?」

「そ、そんなことないのじゃ! 今回こそはこのおじさんが悪いのじゃ!」


 おじさんって。まあそうだけど。そう駄々こねるロシュにサーラは絶対零度の人をも殺せるような視線を向けると、淡々と事実を述べるような口調で話し始めた。


「……いいですか、ロシュ様。彼の持つ魔素は確かにこの世界に影響を与え続けています。しかし、それが原因で魔族の戦闘意欲が薄れたわけではありません。そもそも魔族に戦闘意欲はありません」


 なるほど、それが本当なら魔族も苦労してるんだなぁ。うん、魔族の苦労も何となく分かる気がするぞ。本当に彼女が魔族の王——魔王なら誰だって嫌気がさして逃げ出したくなると思う。


「それは嘘じゃ! 英雄譚に出てくる魔族は大抵人類と敵対するのじゃ!」

「それは大昔の話です。……ロシュ様、あまり人様に迷惑はかけるものではありませんよ」

「むう……迷惑なんてかけてないぞ……」

「それではそこの……ええと」

「ああ、俺の名前はタケルだよ」

「タケルさん。ロシュは迷惑をかけましたか?」


 そう言われて、俺は少し考えた後、こう言った。


「あんまり迷惑ではなかったぞ、うん」


 まあ実際一緒にゲームするのも楽しかったしな。


「……そうですか」

「ほら見るのじゃ! タケルもそう言っておる!」


 胸を張ってそういうロシュにサーラはため息をつくと、俺に頭を下げてきた。


「やっぱりすいませんでした、うちの魔王が」

「まあそれは本当に迷惑だとは思ってないので良いのですけど……彼女は本当に魔王なんですか?」

「ええ、残念ながら、これでもちゃんと魔王です」


 サーラは苦笑いをしながらそう言った。うーん、どうやら魔族も苦労しているみたいだ。


 サーラは凄く真面目そうだからな。おそらくロシュに振り回されて苦労しているのだろう。ブラック企業に勤めて一週間もの間、ずっと上司の尻拭いをさせられてきた俺と似たような匂いを感じる。それはサーラも思ったのだろう、妙な仲間意識が生まれていた。


「サーラさん……たまには愚痴くらいなら聞きますよ」

「……それは助かります」


 深々とサーラは頭を下げた。その様子をつまらなそうに見ていたロシュは俺の脇腹をチョンチョンを突っついて言った。


「それはともかくとして、妾はまだゲームをしたいのじゃ」

「……まだやるのか」

「当たり前じゃ! 妾がタケルに勝つまでやるのじゃ!」


 俺はその言葉に今日は寝られなさそうだと覚悟を決めるのだった。

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