第12話 これが日本式おもてなしです
「おお~! 凄い、凄いぞ~!」
レイナが友人を連れてきた。ちんまい体に大きな三角帽を被ったロリっ子魔法少女だ。彼女は俺の家や周囲の結界なんかを見て両手を上げながらもの凄く喜んでいる。
「なあ、中入ってもいいか~!? いいよな~!?」
顔に直接ワクワクと書いてあるように見えるくらいまで、興奮を隠しきれていない。ブンブンと尻尾が振られているのを幻視してしまうくらいだ。トキが大型犬の落ち着きを持っているとしたら、このアンナって子はまさしく小型犬だった。
「ああ、もちろん中に入るのは構わないよ」
俺が頷いて答えると、いきなりバンッと玄関を開けた。まるで道場破りに来たみたいだ。そしてあちこちに散らばっている俺の試作した魔道具たちをネットリと見始めた。
「すいません、タケルさん。連れてくるつもりはなかったんですけど……。ゲーム機を作った人間に是非とも会いたいと言って聞かなくて」
申し訳なさそうにレイナが言った。俺は首を横に振ると安心させるように返す。
「いや、問題ないよ。レイナの友人で信頼できるって人ならいくらでも連れてきても大丈夫だから」
「そう言ってくれると助かります」
俺の言葉にレイナは安心したようにホッとため息をついた。アンナのほうを見ると、現在は電子レンジ風の魔道具に熱中しているみたいなので、とりあえずレイナにこう言った。
「アンナちゃんはまだ時間かかりそうだから、今のうちに温泉でも浸かってくれば?」
「そうですね。そうさせていただきます。久々の温泉、楽しみです!」
ニコニコとしながらレイナは温泉に向かっていった。うんうん、温泉に浸かれば嫌なことも辛いことも全部流れ出ていくからな。やっぱり温泉は正義。
しばらくアンナは魔道具を必死に眺めていたが、ようやく顔を上げるとキョロキョロと辺りを見渡して首を傾げた。
「あれ、レイナはどこに行ったんだ~?」
「温泉に行ったよ」
「温泉~? なんだい、それ?」
興味深そうにこちらを見てくるアンナに俺は温泉について説明した。すると彼女は目を輝かせながら身を乗り出してくる。
「なあ! それ、私も入っていいか~!?」
「もちろんだが、魔法は関係ないからな?」
「むう~、もしかして君、私のことを魔法馬鹿と勘違いしてないか?」
いや、どっからどう見ても魔法馬鹿だろう、と思ったけど口にはしなかった。その代わり、俺は以前に作った連絡用魔道具を取り出す。ちなみにスマートフォンではなく、ガラケーみたいな形にした。まだこの世界にはネットがないから、スマホにする必要がなかったからな。
「な、なんだそれはっ!?」
俺の取り出したガラケー風魔道具を見て再び目を輝かせるアンナ。しかし俺はサッとそれを隠す。彼女はそれで魔道具を取り出したのが罠だったと気が付いたのか、一瞬で興味なさげな表情になった。
「むっ、危ない、罠だった。私は別に魔法馬鹿じゃないからな~」
そう言いながらも興味を持っていることを隠しきれていない。俺の背中に回った左手に視線が釘付けだった。別に隠すことじゃないと思うんだが、どうやら彼女の中では魔法馬鹿だとバレるのが恥ずかしいみたいだ。
「ともかく、興味があるなら温泉行ってきなよ。まだレイナも入っているだろうし」
「ああ、そうさせてもらうかな~」
そうしてアンナも温泉に行き、その直後、家中に歓喜の声を響き渡るのだった。
+++
「ふう、久しぶりの温泉、気持ちよかったです」
「あんな癒しの空間があるとは思ってもいなかったよ~」
二人は温泉から上がり、扇風機を前に寛いでいた。アンナは扇風機にも興味がありそうだが、今はリラックスのほうが優先みたいだ。
「楽しんでもらえてよかったよ。はい、コーヒー牛乳」
そう言いながら俺は瓶に入ったコーヒー牛乳を二人に手渡す。すると二人は不思議そうに首を傾げた。
「なんですか、これ?」
「ああ、知らないのか。説明するのは難しいが……コーヒーという飲み物に牛乳を入れた物だよ。冷えてるからお風呂上りにちょうどいいんだ」
「なるほど……。とりあえずいただきますね」
よく分かっていないみたいだが、二人はそれをクイッと飲んだ。すると目が一瞬開き、直後溶けそうなほどまで脱力してしまった。
「あ“あ”、ここが天国ですか?」
おっさんみたいなため息をつくレイナ。気分は分からんでもないが、リラックスしすぎでは? 同様にアンナも脱力しきっていた。
しかし自分の作った家や物で他人をもてなして喜んでもらえるのっていいな。大人数は御免だが、このくらいの人数なら定期的にもてなすのも全然ありだと思うようになっていたのだった。
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