第13話 新作の魔道具はヤバいらしい
俺も温泉に入り、二人と一緒に寛いでいると、アンナが唐突にこう言った。
「なあ、そういえばさっき一瞬見せられた魔道具もちゃんと見せてくれよ~」
「一瞬見せた?」
「そうそう。あの細長い小型のパカパカするやつだよ~」
なるほど、ガラケー風魔道具か。もちろん、もとより見せるつもりだったので、俺は頷くとポケットから取り出した。
「これはどんな魔道具なんだ~?」
手渡すと恐る恐る触りながら色々と見て回っていたが、その使い方が分からないみたいだった。
「これはこうやってパカッて開いて、音声を届けたり文章を届けたりできるんだ」
「音声!? 文章!? それってどのくらいの距離まで届く!?」
アンナが急に大声を出して俺は思わず飛び跳ねてしまった。って、顔が近いんだが。俺は口元を引き攣らせながら答えた。
「これは魔素を介して情報を送るから、魔素があるところならどこまででも届くぞ」
俺の言葉に難しそうに考え始めるアンナ。何なのだろう? しばらく考えていたアンナだったが、ふと俺にこう聞いてきた。
「これはまだ他の人には見せたりしてないか?」
「あ、ああ。そもそも知り合いなんてほとんどいないし」
「そうか……。この魔道具、私に貸してくれないだろうか?」
もちろんレイナには貸す予定だったので、俺は頷いてガラケー風魔道具を二つ手渡した。
「ほい。とりあえずアンナとレイナに一つずつな。これでいつでも俺と連絡できるから」
「え? 私にも貰えるのですか?」
「もともとレイナに渡そうと思って作ったものだからな」
そう言いながらレイナに手渡すと嬉しそうに両手で受け取った。とても口元が緩んでいるが、そんなに嬉しかったのか。
「あと、この魔道具は他の人にはまだ貸したり見せたりしないで欲しい」
「なんで?」
真剣な表情でアンナが言ったので、俺は不思議そうに首を傾げた。すると彼女はこれまた真剣な声音で説明してくれた。
「この発明が世間に漏れると最悪戦争になるかもしれないからな」
「せ、戦争……?」
そんな大事になるとは思えないんだが。ただの通信機器だぞ。しかしアンナはさも当然といった表情で頷くと言った。
「ああ、戦争だ。これがあると軍の連携が容易になる。ということは終始優位に進められる。勝ち確の戦争に挑まない人間なんていないだろ?」
そうか、そうなのか。アンナやレイナが何者か知らないが、少なくとも前拾った時の感じからレイナは貴族の令嬢で、家を抜け出して駆け出し冒険者をやっているのだと予測している。つまりこのアンナも友人であるというなら、少なくとも貴族に近しい人間だということだ。
ということは確かに戦争について何らかの考えがあっても納得できる。しかし貴族といっても本格的に家の人が探しに来る予兆がないし、そこまで大きな家でもないんだろうけど。
「確かにそれだったらまだ他の人には見せないほうがいいな」
「ああ、そうしてくれると助かる。一応確認しておくが、私のほうで分解したり信頼できる人に見せたりするのは、構わないだろうか?」
「もちろん渡したものは好きに使ってもらって構わないよ」
俺が頷いて言うと、アンナは安堵の表情をした。この魔道具がそこまでの価値があるとは思ってもいなかったなぁ。
「とと、そろそろ腹が減っただろ。食事にするか」
俺は壁にかかっている時計を見ると、すでに夕食の時間になっていたのでそう言った。すると今まで黙っていたレイナは急にニコニコになって元気な声を上げる。
「やったぁ! タケルさんの料理、大好きなんですよ! 凄く楽しみです!」
「任せとけって。今日も腕によりをかけて作るからな~!」
俺はそう言って腕まくりしながらキッチンに立った。さて今日は何を作ろうか。そういえば前にビーフシチューは作ったけど、カレーはまだ作ってなかったな。カレーにしよう。
そう決めると、こだわってスパイスからカレーを作り始める。『全知全能』で一番美味しいと思われるスパイスの黄金比を調べながら作っていく。
グツグツとカレーを煮始めるといい匂いがリビング中に広がっていく。興味を引かれたレイナとアンナがキッチンまでやってきて、俺の料理の様子を眺め始めた。
「そういえばタケルさんの料理姿を見るの、初めてかもしれません」
「確かに。レイナは食べる専門だったからな。料理には興味ないのか?」
「興味ですか……。ここまで美味しいものが作れるなら、してみたいと思いますけど」
やってみたいとも興味ないとも取れるような反応をするレイナ。これだったら一緒にやってみればハマってくれるかもな。俺も久々に人の手料理食べたいし、レイナに料理を教えてみるのもありかも。
そんなことを妄想していると、すぐにカレーが出来た。俺はお米を皿に盛って、その上にカレーをかけていく。
「これはなんて料理ですか?」
「カレーっていう料理だよ」
そして三人分のカレーを机の上に乗せると、三人でいただきますをする。その直後、美味しさのあまり歓喜の悲鳴が二人分、家中に響き渡るのだった。
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