第33話 自宅を改築しました

 アルバスが『いつか絶対に儂が叡智の大賢者だと証明してやるからなーっ!』とフラグにしか思えない負け台詞を吐いて帰った後、俺もカイトや学会の重鎮たちに惜しまれながらも自宅に戻ってきた。うん、やっぱり自宅が一番落ち着く。


「……てか、レイナやアンナたちの私物とか、適当に作りまくった魔道具の残骸やらで少し手狭になってきたよな」


 そろそろこの世界に来て半年が経つ。友人も増え、よく人がうちに泊まりに来るせいで部屋数も物足りない。そろそろ改築を考えてもいい頃合いかもな。


「しかしどういう家にするか……。森の中の隠れ家みたいなコンセプトはズラしたくないんだよな」


 となると四階建てみたいな背の高い建物よりも、横に広い方がコンセプトに合ってるかな? やっぱり材質は木材で、人が遊びに来るから色々と遊べる遊具も欲しいところ。


 俺は『クリエイト・ハウス』のウィンドウを表示させて新しい自宅を設計していく。家の中にジャングルジムとか登り棒とかブランコとかも作ってみるか。あとはシアタールームみたいなのもあるといいな。これでゲームやったり映画見たりできるしな。まだこの世界に映画やDVDみたいなものはないから、そこら辺もどうにかしたいところだが。あとで学会とかサクラダ商会に持ちかけて映画会社的なものを作ってみてもいいかも。


 そして、部屋数は10つくらいに増やして、横長の建物にした。二階建てだ。もちろん材質は木製で、温かみのある家を目指してみた。


 あとは地下に実験する用の地下室を作った。ここで魔道具作りや絵画制作に励むつもりだ。ちなみに地下室にしたのは雰囲気重視でしかない。


「よしっ、できたかな」


 俺は自分の家の外観を眺めながら腕を組んで頷く。我ながらいい出来栄えだ。夢見たマイホームである。そして家事全般は——。


「タケル様、掃除洗濯料理、その他諸々の家事は全て私にお任せください」


 先日作った戦闘メイドゴーレムのユイに頼むつもりだ。完璧だ、完璧すぎるスローライフが完成したかも。そう思って少し感激していると、転移用のペンダントを使って周囲を覆っている結界内にロシュとサーラが転移してきた。


「——って、おおっ!? タケル、メチャクチャ家が進化しているのじゃ! 素晴らしいのじゃ!」

「なかなか趣味のいい素晴らしいお家ですね」


 二人とも新しい家を見てテンションが上がっている。サーラもあまり表情は変わっていないが、ホントに微かに頬が上気していた。俺はそんな二人に近づくと早速中を案内することに。


「とりあえず色々説明するからついてきなよ」

「中がどれだけ進化しているのか、楽しみなのじゃ!」


 俺の言葉にロシュは興奮を抑えきれない感じで先を急かす。そのことになんだか嬉しさを感じながら俺は玄関を開けて中に二人を招待した。


「まずはロビーだけど、ここから登り棒を使って二階のロビーに行けるようになってるんだ。その横にボルダリングもつけておいたぞ」

「ぼるだりんぐ? なんじゃ、それ?」

「ああ、これのことだよ。この壁に張り付いている石を使って上に登っていくスポーツのことだな」


 俺が言うとロシュは前のめりに顔を近づけてきて言った。


「楽しそうなのじゃ! 妾が一番乗りしてもいいか!?」

「もちろん。やってみてよ」


 この世界の人なら二階から落ちた程度じゃ死にはしないだろうけど、一応下にはクッションも敷いてある。安全に楽しめるように配慮は欠かさない。


「タケル! どうじゃ、ここまできたのじゃ!」


 ロシュは二階のそばまでスラスラと上がっていくとドヤ顔で声をかけてきた。しかし俺に声をかけるために振り返ったせいで両手を離してしまったらしく——。


「ああっ! しまったのじゃ! 手を離してしまったのじゃぁあああ!」


 そう叫びながら落っこちていくロシュ。うん、やっぱりクッションを置いておいて正解だったな。


「ふう、危なかったのじゃ。この柔らかい敷物がなければ即死だったのじゃ」

「そう簡単に死なないでしょ。魔王なのに」

「それは言わない約束なのじゃ。ともかく他も案内して欲しいのじゃ!」


 そして今度はロビーから左手の通路に入り、長い廊下に入る。そこには俺のお気に入りのイラストを飾っている。俺の作品以外にもいろんな人の作品を集めておいたので、それを飾っている。


「この廊下のいちばん手前の部屋がリビング兼キッチンだな」


 言いながら俺は手前の扉を開け中に入る。すると二階まで突き抜けた、横と縦に広めのジャングルジムがお出迎えだ。


「なんなのじゃ、これは!? 家の中に鉄格子があるぞ!」

「これはジャングルジムって言って、登ったりくぐり抜けたりして遊ぶ遊具だよ」


 俺が説明すると、サーラが感心そうにポツリと呟く。


「なかなか遊び心満載でいい感じですね。魔王城の無機質さとは真反対です」

「そうだろう? みんなで楽しめるように作ってみたんだ」


 少し自慢げになってしまったが、俺は嬉しくてそう言う。それからジャングルジムを潜り抜けると本当のリビング兼キッチンにたどり着く。そこにはスピーカーが用意されていて、お気に入りのピアノ曲が流れている。


「リビングも広いのじゃ! てか、これらはなんなのじゃ?」

「おっ、いいものに目をつけるね」


 ロシュが見つけて首を傾げているものは、棚にパンパンに詰まったボードゲームたちだ。異世界に転生して新しい人生をプレイする『転生ゲーム』とか、領地を取り合って開拓していく『開拓ゲーム』みたいなものを作って用意している。まあ大体前世で流行っていたものをそのまま持ってきただけだけど。


「それらはボードゲームって言ってね、簡単に説明するとみんなで遊べる遊びだよ」

「後でやってみたいのじゃ! ワクワクするのじゃ!」


 そう言って子供のようにはしゃぐロシュに俺とサーラは温かい視線を送りながらも、次の部屋へと案内を続けるのだった。

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