第55話 花見をしよう
冬が明けて春が来ていた。日本と同じ四季があるこの異世界も、春は長閑で暖かく過ごしやすい気候だった。しかし現在、俺はその気候をちゃんと享受できていなかった。なぜなら地下室でとあるものを作っていたからだ。『クリエイト・マジックアイテム』でも作れるのだが、このスキルを使って作ったものはやはり満足いく味をしていなかった。なので、俺は『全知全能』で作り方を調べ、なんとか満足のいくものを作ろうとしているのだった。
地下室に通い始めて早三週間。俺はようやく出来上がった日本酒をおちょこに注いでいた。緊張の瞬間である。
「上手く出来ているといいが……」
ごくりと思わず唾を飲み込む。そして俺は自分で一から作り上げた日本酒を口に含み——。
「おおっ! これだこれだ! やっぱり日本酒といえばこれだよ!」
少し甘みが目立つ、フルーティーな日本酒が出来上がった。物凄く美味しい。それに加えて懐かしさもあった。異世界に来てから日本酒なんて初めて飲むからな。そりゃ懐かしくもなる。
「さて、日本酒と春……この二つが揃ったら花見をしないとな!」
俺は一人ニヤリと笑ってそう呟くと、花見に必要なものを考える。まずは人。一緒に花を見て酒を飲んで語らい合う友人が必要だ。多ければ多い方がいいから、レイナ、アンナ、ロシュ、サーラ、エルン、ベリアルあたりはマストで誘おう。あいつら、なんだかんだいって遊びに誘ったら絶対来てくれるし。それなりに立場ある人たちだと思うんだけど、忙しくはないのだろうか? まあそう思いつつ誘ってしまう俺にも問題があるが。そしてユイとトキは強制参加だな。もし誰も来なかったら寂しいし。
後必要なのは飯だな。花見らしく重箱の弁当でもいいが、せっかくだから異世界ならではの食材を使ったおつまみにしたいよな。ドラゴンのローストビーフ、ドラゴンのタン、スプラニールの馬刺しとかも捨てがたい。う〜ん、夢が広がる。ともかく早速声をかけてみよう。そう思い立って以前にみんなに渡したガラケー風魔道具に着信を入れる。
「もしもし。タケルさん、どうかしました?」
まず最初はレイナだ。俺は単刀直入に端的に説明する。
「明後日に花を見ながら酒を飲んで美味しいものを食べて、みんなで語らい合う会——通称花見をしようと思うんだけど、来る?」
「行きます」
即答だった。仕事はいいのか。まあ今更だが。
「てか、それって誰がくるんです?」
「ん〜と、レイナ、アンナ、ロシュ、サーラ、エルン、ベリアルあたりを誘おうと思ってる」
「おお、いいですね! 楽しそうです! 絶対行くので詳細が決まったらまた連絡してくださいね」
「分かった分かった。レイナは開始時間とかどのくらいがいいとかある?」
「特に私はありませんよ。朝から晩まででも可です」
こんなやりとりを六人分行い、結局みんな来ることになった。いやぁ、楽しみだなぁ。俺はそのことをユイにも伝え、さらに言った。
「それで色々おつまみを作ろうと思うんだが、手伝ってくれるか?」
「もちろんです、タケル様。私がとっておきのおつまみを作り、最高の花見にしてみせます」
俺の言葉に胸の前で拳を握り締めやる気を出すユイ。まあ俺もおつまみ作りは手伝うが、こうやる気を出してくれると嬉しいよな。と言うわけで花見をすることが決まった俺たちは、次の日にはおつまみの材料を求めて森を彷徨い始めるのだった。
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