第56話 早速カオス

「えー、今日はみんな集まってくれてありがとう!」


 二日後。俺たちは少し離れた孤島に来ていた。ここに桜のような木々が生えており、今の時期に満開になると『全知全能』に書いてあった。そしてその通り、桜色の花びらがこれでもかと咲き誇っている木々が乱立していて、まさしく花見にもってこいの場所だった。その中で一番大きな木の下にシートを敷き、俺たちは花見をしようとしていた。


「ワクワク」

「こんなところがあったなんて初めて知ったな〜。この木は初めて見るぞ〜」


 嬉しさを抑え切れないのか、ずっとソワソワしているレイナと、興味深そうに周囲を見渡しては、魔法使いの血が疼くのか花びらを採取したり観察しているアンナ。ロシュとサーラは遅れてくるらしいが、ベリアルとエルンもすでに来ていて、二人ともワクワクを感情を抑え切れない表情をしていた。


「というわけで、今日は俺お手製の日本酒というものを作ってみたから、これで乾杯しよう!」

「おお! ニホンシュですか! タケルさんの作るものは大抵美味しいので楽しみですね! ベリアルと違って!」

「おい、どういう意味だよ」

「そのままの意味ですよ〜だ。てか流石にあれだけ言われてきたんですから、自覚してください」

「自覚するのと他人からチクチク言われるのとでは訳が違うから」


 確かにそれはそうだ。自覚しているから、なんでも言っていいって訳じゃないよな。ぐぬぬといがみ合うレイナとベリアルは放っておいて、俺は司会を進めていく。


「ともかく。今日は俺とユイが合同で作ったおつまみもたくさんあるから、それもつまみながら楽しんでいってくれ!」


 そう言って、みんなの意識がこちらに向いたことをグルリと見渡して確認する。うん、ちゃんとみんなこっち見てるな。それじゃあ、早速いくか——。


「それではみんな、この満開の花と全ての出会いに、乾杯!」

「「「かんぱ〜い!」」」


 そうして花見が始まった。早速エルンが一口日本酒を口に含み——。


「おっ、おいしいです、これ! めちゃくちゃ美味しいですよ!」


 目を見開きプルプルと震えた後、いきなり両手をあげて褒め称え始めた。よほど美味しかったのだろう。うん、エルンの口に合ってよかった。誰一人として好みじゃなかったら流石に悲しいからな。エルンの反応を見て興味を抱いたのかレイナも口に含んだ。


「おおっ! 本当です! すごく飲みやすいですね、これ!」

「本当だな〜! 甘くて飲みやすくて、ストックがたくさん欲しくなるぞ〜!」


 レイナにもアンナにも好評だ。さらにベリアルも自家製日本酒を一口飲み。


「本当だ。美味いなこれ。特別なパーティーとかでも是非振る舞いたいくらいだ」


 他三人ほどのリアクションではないが、ベリアルもかなり絶賛してくれた。これは丹精込めて作った甲斐があるというもの。ユイはゴーレムなのでアルコールは入れても意味なく、トキもお酒はNGなので、あとはロシュとサーラが来たら是非飲んでもらおう。ちなみにユイは完全に保護者役というか、見守り隊に徹していて、トキは端の方でドラゴンの生肉を美味しそうに頬張っている。それから十数分後。本当にみんな日本酒を気に入ってくれたのか、ガバガバ飲み、かなり酔っ払ってきていた。


「ベリアルさぁん! なんか面白いことやってください!」

「なんだよ、面白いことって! そのフリは人を殺すからやめとけ!」

「ええ〜、じゃあタケルさん〜。面白い話してください〜」


 どうやらレイナはベロベロになると絡み上戸になるらしい。その隣でアンナはずっとケラケラ楽しそうに笑ってる。エルンはお酒に弱いのか既に眠そうに首をカクンカクンさせていた。


「面白い話かぁ」

「そうですよ〜! 私は面白いことを所望します!」

「……レイナって酒飲むと面倒になるのな」

「面倒ってなんですか、面倒って! 私はそんなに面倒な女ですか!」


 プンプンと頬を膨らませて言うレイナ。ベリアルは呆れたような表情でレイナを見ながらチビチビ日本酒を飲んでいた。そんな時、近づいてくる二つの人影が。


「妾たちを置いて先に始めてるなんてズルい!」

「ロシュ様。仲間外れにされたからって拗ねないでください」

「拗ねてない! 別に拗ねてないもん!」


 ムスッとした表情のロシュと、淡々とした表情のサーラだった。そんな二人……というかロシュに早速レイナが絡み始める。


「ロシュさん! 何か面白いことやってください!」

「おっ、面白いことだと!? 面白いこと、面白いこと……」


 レイナに言われて真剣に悩み始めるロシュ。そんな彼女に呆れた表情を向けてサーラが言った。


「ロシュ様。レイナ様は適当言ってるだけですので気にしなくていいですよ」


 しかしその言葉はロシュには届かなかったのか、うんうんと十分に悩んだ後、ロシュは一つ頷くと両手をあげた戦隊モノの登場ポーズのようなものをして。


「妾、カマキリ!」

「…………」


 しーん。静寂が訪れた。マズい、これは非常にマズい。その静けさの中でアンナだけがケタケタ笑っているのが、余計にマズい。スベったことに気がつき始めたロシュが、怒りと羞恥で顔を真っ赤にしてプルプルと震え始める。そして怒りのボルテージが頂点に達し、爆発させようとしたその瞬間。


 ピカッと眩い光が周囲を包み込んだ。眩しくて思わず目をつぶる。その後、光が収まってゆっくりと目を開けると——。


「ぱんぱかぱ〜ん! 女神様こと個体ナンバー19987の登場ですよ!」


 俺が転生した時に話をした女神様が何故か突然登場するのだった。


 ちなみにロシュは振り上げた拳を振り下ろし損ねて、行き場を無くした怒りでさらにプルプルと震えていた。

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