第20話 ターニングポイント・叡智の大賢者

——アンナ視点——


「よ、ようやく構造の解析だけだが終わったぞ〜……」


 椅子の背もたれに体重を預けながらそう呆然と呟く。長く苦しい戦いだった。この『ゲーム機』とやらの構造を全て解析するのは相当に骨が折れた。


「しかし物凄い革命だった。これを作れれば、そして応用できれば世界に激震が走るぞ……」


 基本、魔道具というものは単純に魔法陣を描いて、それに魔力を通すことで発動させるものだ。しかしこれはまず空気中の魔素を魔力に変換させるところから始まっている。


 その魔法陣の仕組みはまだ解明できていないが、空気中の魔素が触れることによって微弱な魔力が発生される金属——銀に魔法陣が書いてあるので、その変換用の魔法陣は魔素が空気中にある限り永久に作動する。


 しかも銀は使い道が分かっていないことと、その採掘できる量が多いことから、価値が低い。この自動魔力生成器は低予算で大量に作れるということだ。


 その自動魔力生成器で作った魔力をさらに大きな魔法陣に運ぶという発想も凄い。普通なら魔法陣は単体で使うもので、魔力を運ぶという発想はなかった。この発想があれば魔法陣同士を組み合わせて使えるということだ。


「しかしゲーム機本体の魔法陣の仕組みはさっぱりだったが……まあこれはそのままコピーすれば使えるからな」


 魔法陣というものは正確に模写すれば流用が可能となっている。だからこそ、魔道具というものが世間に浸透したわけだが。一人の天才が優秀な魔法陣を作れば、後はそれを使い続ければいいだけだからな。


「ともかく、試作でゲーム機を自分なりに作ってみよう」


 そう言って私は再び作業に戻った。


 それからしばらくして私はタケルさんに通信用の機器を通して自分の研究を発表していいか聞き、了承を得ると、彼の名前を挙げながら学会で研究結果を発表した。


「な、なんだこのゲーム機とやらは……」

「こんなものは見たことがないぞ!」

「これは世紀の大発明だ! 作ったやつをここに呼んでくれ!」


 学会に居座る頭の硬いジジイ共もそう声を揃えて荒ぶったが、タケルさんは静かに過ごしたそうにしていたのを思い出して居場所は隠し通した。そのことによって逆に彼はあの伝説の『叡智の大賢者』なんて呼ばれ始めてしまうのだった。


 それから数ヶ月後、市場にゲーム機というものが発売され始め、世間にゲームブームが起こり始めることになるのだが、タケルはまだそのことを知らない——。



+++



——エルン視点——


 私はタケルの住んでいた家を離れエルフの国に戻ると、早速温泉の有用性を長老たちに説いた。と言っても私は1036年も生きたハイエルフなので長老たちよりも偉い。簡単に要求は通りエルフ総出で温泉掘削に励み、近くの火山の麓ですぐに掘り出された。


「おおっ! 温泉だ!」


 私は思わず感激し涙を流してしまったが、すぐさまみんなで温泉に浸かれるように形を整えていく。男女で分け脱衣所を作り、誰でも気軽に入れるように環境を作った。


 すると長老たちを始め、ゆったりとした時間を好むエルフたちに大好評。瞬く間にエルフの国中に温泉の存在が広まっていった。


 そして長老たちにタケルの話を伝えると、どうやら神の存在のように称え始める。同時に何故こんな長い時間を生きていて温泉というものにありつけなかったのかと後悔し始めていた。


「そのタケルとやらはかの伝説の『叡智の大賢者』なのではないか?」

「ああ、おそらくそうだろう。儂等でも知らない『温泉』とやらを知っていたのだからな」


 そして大流行を見せた温泉と、それを見つけ出したタケルという人名がエルフの国で一世を風靡するのだった。



   ***



——ダイダス視点——


 俺は前に貴族の家で見せてもらったデフォルメの芸術作品に感化されてすぐさま似たような絵を描いた。すると瞬く間に世間に浸透し始めて、芸術界隈を一瞬で変えてしまった。


 結局あの絵を描いた人物は無名であり、流行っていたとは言え物好きしか買わなかったのが、元々名のあった俺が模倣したおかげで世間にまで広まったのだ。


 今度は俺の絵を模倣し始める奴が現れ始め、物凄い勢いでこの技法が広まっていく。もちろん源流を作り上げた彼の作品が一番高騰しているから損はしていないはずだが、若干申し訳なさを感じる。


 サクラダ商会に直接顔を合わせたいと問い合わせたが、それすらも断られてしまったから謝ることもできないが。


 そう思っていたら商会伝手で俺に『この絵画を広めてくれてありがとう』という言葉を送ってくれた。なんて心の広いお方なんだ。その頃からだろう、かの芸術家はもしかしたら伝説の『叡智の大賢者』なのではないか? そう思うようになっていた。


 そして同じように思う人は芸術界隈の中でも増えていっていた。


 俺たちがそんな彼の作品のテイストと、最近巷で流行っているゲーム機で使われるキャラクターのテイストが似ていることに気が付くまで、そう時間はかからなかった。

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