第21話 ネット対戦できるようにしました

——タケル視点——


「くそっ! また勝てなかった!」


 現在、俺の家に遊びに来たレイナとベリアルと名乗った少年はゲームを楽しんでいた。ベリアルは必死にレイナに勝とうとしているがなかなか勝てないらしい。うんうん、負けると悔しいよな、分かる。


「ふふふっ、ベリアル様では一生私に勝てませんよ。何度やっても同じです」

「絶対に勝ってみせるからな! 俺には師匠もいるんだし!」


 そう言ってベリアル君は俺の方を期待するような目で見る。


「いや、俺は別にベリアル君を弟子に取るつもりなんてないからな」


 俺が言うと彼はガァンっとショックを受けたような表情で膝をつく。そんなに勝ちたいのか……。確かに女の子にボコボコにされるのは男子としての誇りを傷つけられた気がして悔しいのは分かるが。そこまでかな?


「そんな無体な……。せめて勝ち方でも教えてくれれば……!」

「いや、それを自分で編み出して工夫していくのが楽しいんだろ」


 やっぱりゲームというのは楽しむのが大事だ。逆に楽しめなくなったら上達しなくなる。好きこそ物の上手なれって言葉があったが、まさしくそれだと俺は思う。だから精々悔しく思いながら鍛錬に励むんだな。……別に最近レイナやアンナが急激に強くなってきていて、焦ってるとかそんなんじゃないからね?


 てか急激に強くなりすぎなんだよな、二人とも。二人で毎日のようにゲームしてるとしか思えない。いや、もっと大人数を巻き込んでやってたりするのか……? まあゲームは大人数で楽しんだほうがいいからな、それは構わないんだが、そうすると俺の立ち位置が危うくなりそうだ。


 うん、俺も鍛錬を積まないと。そのためには——。


「なあ、アンナ」

「ん〜? どうした〜?」


 疲れたようにソファに身を預けて休んでいるアンナに俺は声を掛ける。なんだか最近急激に忙しくなったのだとか。ご愁傷様です。


「そういえばゲーム機を改良してな、アンナとレイナには渡しておこうと思って」

「…………マジかぁ〜」


 絶望、みたいな虚な表情で俺の方を見るアンナ。どうしたのか。だが作ってしまったものは仕方がないし、これがあれば俺もみんなとゲームが一緒に出来るからな。とりあえずアンナには伝えておきたい。


「まあ、改良と言っても本体が変わるわけじゃないから安心しなって」

「おお、それなら良かった〜」


 アンナは俺の言葉に心底安堵の表情で胸を撫で下ろす。ホントにどうしてしまったのか。不思議な反応をするものだ。


「それで作ったのは、ネットワークアダプターってものなんだけど」

「ネットワークアダプター?」

「そうそう。これをゲーム機のここに繋げば離れた場所にある他の人と一緒にゲームが出来るようになるんだ」


 ふふふっ、これを作るのには苦労した。ガラケーを作ったときにも悩んだが、そもそもこの世界にネットって概念がないからな。『全知全能』にも作り方は載っていなかったんだよね。一応従来のネットを魔道具として代替する方法は書いてあったのだが、それだと普及させるのに時間がかかる。だから俺は頭を捻って簡単に普及できる方法を考えたのだ。


 それは『可変式魔法陣伝達』という方法である。データとしての情報を伝達するものだとガラケー風魔道具が限界だが、可変式の魔法陣をそのまま魔素に込めて伝達すれば情報量が増え、遅延なくデータのやり取りができるようになったのだ……多分。


 まだ作ったばかりだからちゃんと動作するかは分からないが。一応使ってみてちゃんと作動するのは確認しているがバグが発生しないとも限らないからな。


「…………は? 離れた場所の人と……?」


 ポカンと口を開けてアンナは放心してしまった。さっきから本当にどうしたんだろう? ちょっと不安であるがまあこの世界の禁忌は犯していないはずなので、大丈夫なはずだ、うん、多分きっとメイビー。


「まあともかく持って帰って使ってみてよ。そうすれば俺と一緒にゲームができるからさ」

「あ、ああ。ありがとう」


 虚な目で俺の作った拡張用の魔道具を受け取るアンナ。ちなみにレイナにも渡したが彼女はよく分かっていないのか単純に一緒に出来るようになって嬉しそうだった。


「おい、師匠! 俺にはないのか?」

「あ、欲しい?」

「当たり前だろ! 俺にも作ってくれ!」


 そのやりとりを見ていたベリアル君もその魔道具を欲した。どうしようか、二人分しか作ってないんだよな。


 一応スキルの『クリエイト・マジックアイテム』という魔法スキルでちょちょいと作れるけど……。ちょっと面倒なんだよなとか考えていると、思わぬ方面から追撃がかかった。


「タケル〜、私はタケルが魔道具を作ってるところを見てみたいぞ〜」


 なぜか急に元気になったアンナがそうベリアル君の肩を持ち始めるのだった。

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