第19話 美味しすぎるステーキ肉はヤバい
「凄いお家ですね! 面白そうなものがたくさんあります!」
エルンが何故かうちにやってきて目を輝かせながらそう言った。面白いことに、うちに来た人はみんな同じような反応をするんだよな。
「ともかく、エルンは汗臭くなってるから温泉に入ってきな」
「なっ!? 乙女に汗臭いなんて厳禁ですよ!」
「あー、はいはい。すまんすまん」
「それちゃんと謝ってますか!? 謝罪の念が伝わってこないんですけど!?」
なんかエルンは女の子というよりも友人に近い感じがする。エルフなので見た目に反して年齢が近いというのもあるだろうし、出会い方ってのもあると思う。
「てか、温泉ってなんですか……?」
「行ってみれば分かるさ。メチャクチャ気持ちいいぞ」
そして俺はエルンをお風呂場に押し込むと、トキのためにドラゴン肉のステーキを作り始める。前に使ったバーニング・ドラゴンのものよりも上質そうな肉である。
「わん!」
肉を焼く準備をしていると何をしてるんだみたいな感じで不思議そうにトキが近づいてきた。俺はその頭をモフモフと撫でながらこう言った。
「お前の誕生日プレゼントに美味しい肉を取ってきたからな。一緒に食べような」
「わん!」
俺の言葉を聞いたトキは嬉しそうに尻尾をブンブンさせる。良かった、喜んでくれたみたいだ。
そろそろ肉を焼こうという時に、エルンが興奮した感じでお風呂場から出てきた。
「凄い、凄いですよタケルさん! 温泉というものは大発明です!」
「そうか。気に入ってもらえたなら良かったよ」
「あれはみんなに広めるべきです! いえ、なんなら私が広めます!」
むすぅっと鼻の穴を大きくしてエルンは言う。彼女にそれを広められるほど影響力があるとは思えないが、温泉が広まるのはこちらとしてもありがたい。やっぱりここだけじゃなくて色々な温泉にも入りたいし。
「じゃあ広めておいてよ、温泉」
「任せてください! 絶対に世界中に温泉を広めます!」
凄くやる気だ。しかしこんな残念少女にそこまでの力はない気がする。いやでも、ここまで熱量があるならワンチャンあるか……?
「とまあ、そんなことより、そろそろドラゴンの肉を焼くけど、エルンも食べるか?」
「いいんですか!?」
「ああ、もちろん。エルンには一応討伐を手伝ってもらったからな」
俺が言うとエルンは嬉しそうにピョンピョン跳ねる。
「やっぱり素材、欲しかったんじゃないか」
「いえ、そうじゃないんですよ! 人の作った温かくて美味しい料理なんて久しく食べてないんで!」
そうなのか……。そんな貧困な暮らしを。少し同情してしまったのでエルンの肉はトキの肉と同じくらい大きくしてあげようと決意した。
「それじゃあ焼くぞ〜」
俺は『料理補助』を使い全力で肉を焼いていく。最近は補助なしでも美味しく料理できるようになってきていたが、やっぱりこればっかりは最高の出来栄えにしたい。
ジュウジュウという肉の焼ける音、美味しいそうな香ばしい匂いがリビングにまで流れていく。その間、トキとエルンは暇つぶしに戯れていたが、そうでもしていないと食欲に負けてしまうらしかった。
確かに暴力的な匂いである。旨味が凝縮されていそうな感じだ。流石は世界最上級の肉の匂いは違う。ちゃんと『全知全能』で肉の美味しいドラゴン種というものを調べて、わざわざアルポンス山まで向かったのだから。
「さて、できたぞ〜!!」
目の前にはホクホクのステーキ肉が三枚。お手製のワサビ醤油のタレを添えて完成だ。
「ワクワク、ワクワク!」
すでに机に待機しているエルンとトキ。そんなに食べたかったのか。彼女らの前にステーキ肉を置いて、自分の分も持ってくると、手を合わせて食べ始めた。
口に入れた瞬間、脳みそが弾け飛ぶかと思うくらいの旨みの暴力が襲ってきた。衝撃的とはまさにこのことだろう。今までに食べたことのない複雑で繊細な味。肉汁が溢れ、解けていくような感覚。
「お、美味じい……」
って、ヤバい。エルンの目が飛んじゃってる。俺は慌ててエルンの肩を掴み思い切り揺さぶった。
「おい、危ないぞ! そのままだと天国に行っちゃうってば!」
「天国、ああ、ここが天国ですか……」
「違うから! まだエルンは現実に生きてるから!」
「…………はっ!? あ、危ない! もう少しで逝きかけるところでした!」
良かった、もどってこれたみたいd……って、トキの目も飛んじゃってるよ!
そんな風に慌ただしくそのステーキ肉をなんとか完食まで持っていくった。本当に危なかった。うん、美味しかったけど食べすぎるとヤバそうなので、当分は封印しておこうと心に決めるのだった。
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