第18話 エルンとドラゴンを狩りました
「ふふん! どうですか、私の力は!」
エルンはオークを倒した後、こちらにわざわざ向き直ってドヤ顔でそう胸を張った。彼女は意外にもそれなりに強いらしい。俺は思わず感心したような声を上げた。
「へえ、意外とやるんだな」
「そうでしょう、そうでしょう! 私も意外とやるんでs——」
フッフーンと言いたげに鼻の穴を大きくして無い胸をこれでもかと張っていた彼女は、次の瞬間にはやはり人食い花に頭から齧られていた。……うん、彼女の運がないのは本当らしい。
運がないのか、人食い花に好かれがちなのかはいまだに判断がつかないが、どちらにせよ実力があるのは確かだと思った。残念な子なのも間違いないが。
俺はガジガジされているエルンを人食い花から救出して先に進む。しばらく魔物を倒しながら歩いていると、ふとエルンがこう言った。
「そういえばタケルさんって普通の人間じゃないですよね?」
「……ん? 普通の人間だけど?」
「そうなんですか? 魔素の質が全く違うのでもしかしたらって思ってたんですが」
エルンの言葉に俺は思わず驚き目を見開く。
「魔素の質が分かるの?」
「まあそういう体質ですから」
へえ、それは凄い。全知全能によると、魔素というのは人間からすると不可視のものであり、ここ数年の間に研究が進み始めて、ようやくその質と量が大掛かりな魔道具を通して何なとなく確認できるようになった、と書いてあった。
だから魔道具も無しに魔素の質が分かったりするのはかなり特殊な例なのではないだろか?
「もしかしてエルンってすごい人?」
「あっ、ようやく気づきましたか! 私は一千年以上の時を生きるハイエルフなのですよ! 普通、エルンって聞いたらみんな頭を下げ敬ってくるんですけどね〜」
すごい人なのは間違い無いんだろうけど、流石にそれは盛りすぎだろう。まあ背伸びしたくなる気持ちは分からんでもないが。俺は生温かい視線を送るとうんうんと頷きながら言った。
「分かる、分かるぞ、その気持ち。でも嘘は良くないからな」
「嘘じゃないですよぉ! た、確かに出会いからして残念な感じは否定できませんが、本当なんですって!」
う〜ん、いまいちこの子が一千年も生きてるなんて想像つかないんだよなぁ……。どうも信じきれない。
「むう……その目は信用してない目ですね。まあいいです。私としても畏まられるよりかは接しやすくて楽なので」
「そういうものか」
「そういうものです」
そんな会話をしながらのんびりと山頂まで登る。ちゃんとエルンもついてこれていて、偉い。
「とと、そろそろドラゴンの巣に到着しますよ」
エルンがそう言った瞬間、俺たちの前に大きなドラゴンが現れた。そいつは前に戦ったバーニング・ドラゴンよりも一回り以上も大きく、迫力満点だった。
「おお、でかいな」
「感心してないで早く戦いましょう!」
ウズウズしているエルンに急かされて、俺たちとそのドラゴンの戦いが早速幕を開けるのだった。
+++
「意外と余裕でしたね。やっぱりタケルさん、メチャクチャな戦い方をしますよね」
「確かに随分あっさりだった」
呆れたような視線を向けながら言うエルンに、俺は頷き同意する。しかし勝てて良かった。これで当分は食材には困らないし、トキへの誕生日プレゼントも用意できた。
「エルンはこいつのどの素材が欲しいんだ?」
「ああ、私は要りませんよ? ただ楽しそうだからってついてきただけですから」
「え? 本当? いや、そう言うわけにはいかないと思うんだけど」
俺が首を傾げながら言うと、彼女はにっこりと笑って首を横に振った。
「本当に要りません。そもそも無理矢理ついてきたのは私ですし、素材にも困ってませんから」
「そ、そうなのか……」
何だかエルンが女神様のように見えてきた。よく考えると、その微笑みも慈愛に溢れているような——。
バクン。
そう思った直後、エルンはいつも通り人食い花に頭から齧られる。……凄く締まらない。というかこれがあるからエルンが凄い人だというのを信じきれないんだよなぁ。
「さ、さて。気を取り直して麓に戻りましょう」
「ああ、そうだな……」
そうして俺たちは気まずい雰囲気のまま帰路に着くのだった。
「てか、エルンはどこまでついてくるんだ?」
「え? タケルさんのご自宅までですけど?」
…………は?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。