第9話 モフモフと出会いました

「さて、今日は一人バーベキューでもするか」


 レイナが帰った後、俺は一人きりになってしまった。少しの寂しさを感じつつも、まあ前世でも基本一人行動が多かったので、すぐに慣れるだろう。


 というわけで、俺はドラゴンやらオークやらの肉をたくさん集め、一人バーベキューの準備を進めていた。せっかく森暮らしなわけだし、自然を堪能できるイベントが欲しいところだったしな。


「炭よぉし。飯盒よぉし。バーベキュー開始だ」


 炭に火をつけて、その横で薪に火をつけながら飯盒を炊く。お米を待つ間に早速肉を焼いてしまおう。


 まず初めに食べるのはドラゴンのタンである。流石はドラゴン種。舌がめちゃくちゃ大きく、食べ応えがありそうだ。


 この歳になると本当にカルビみたいな脂っこい肉が食えなくなるんだよなぁ。タンにレモンをかけて食べるのが一番ちょうどいい。


「とと、ビールも作ってみたんだったな」


 日本だとアルコールを発酵させると即逮捕だが、ここは異世界である。別に犯罪にはならない。というか異世界での普通の水は寄生虫が多すぎて飲めたもんじゃないらしい。だからアルコールが主な飲料なのだとか。


 まあ俺の住んでいる森の川水はとても澄んでいて、飲み水にしてもちょうどいいくらいなのだが。こういうのは稀だとレイナが前に教えてくれた。


 キンキンに冷えたビールを手に、俺はまず焼いたドラゴンのタンを口に運ぶ。牛タンよりも肉厚で旨味が凝縮されている。上手い。そしてタンをビールで流し込む。


「くぅ! この日のために生きてきたといっても過言ではない!」


 最高のひと時だ。しばらくしてお米も炊け、至福の時間を楽しんでいると、森の奥からゴソゴソと何かが現れた。


 現れたのは真っ白の大きな犬だ。一瞬魔物かと思ったけど、結界が破かれた様子はない。ってことはこいつは魔物じゃないんだろうけど……。


「くぅん!」


 めちゃくちゃキラキラした瞳で俺の持つ肉を見つめている。この肉が食べたいのだろうか……?


 とりあえず箸を左右に揺らしてみる。するとそれに同期するようにその輝いている瞳も左右に揺れた。


「これが食いたいのか?」

「くぅん!!」


 ブンブンと頭を縦に振った。どうやら言葉も理解できるようだ。俺はその犬っころに近づくと、目の前に焼いた肉を置いてみた。


「わん!!」


 するとものすごい勢いで食べ始める。相当お腹が空いていたのだろう。一瞬で食べ終えると、俺に寄ってきてペロペロと頬を突いてきた。


「……まだ食べたいのか?」

「わん!」


 食べ足りないみたいだ。俺はドンドン肉を焼いていき、その犬っころに食べさせてあげた。


 三十分ほど一緒にご飯を食べていると、唐突に犬っころが立ち上がった。そして森の奥のほうに歩いていく。帰っちゃうのかと一瞬寂しくなるが、犬っころはすぐに振り返ってきてついてくるように顎で促した。


「ついていけばいいのか?」

「わん!」


 よく分からないが、変なことはされないだろう。俺は犬っころについて森の奥に歩みを進めた。するとそこには滝があった。そのまま犬っころは滝の裏側に行ってしまい、俺は慌ててついていった。


「って、ここはどこだ?」


 滝の裏は洞窟だろうと思っていたのだが、だだっ広い草原が広がっていた。俺が思わず首をかしげていると、俺の周囲に光の玉みたいなのが舞い始める。


「これは……?」


 犬っころのほうを見て聞いてみるが、反応を示さず、そのまま草原を歩き始めた。俺は黙ってついていく。ついでに光の玉もついてくる。


 そんな大所帯で歩いていると、遠くに人が立っているのが見えた。どうやら犬っころはその人と合わせたかったらしい。近づくと、めちゃくちゃ美人な女性で、サラサラの水色の髪と羽衣みたいな衣装が精霊を思わせる。


「初めまして、タケルさん。私は精霊王ソフィアです」

「精霊王……?」

「はい。もともとただの精霊でしたが、タケルさんが現れたことにより周囲の魔素が変質し、私が精霊王に進化することができたのです」


 ……何を言っているのか分からないよ。俺は『全知全能』で調べようと思ったが、ソフィアに止められた。


「ああ、調べなくても大丈夫ですよ。私はタケルさんの魔素の影響を受けた精霊です。意識の共有くらいはできるので」


 さらに意味が分からなくなって首を傾げようとすると、頭の中にものすごい情報が流れてきた。


「おお、おおっ。なるほど、そういうことか」


 ソフィアからの意思疎通で理解できた。どうやら俺は上位世界の住人なので、持っていた魔素の質がこの世界のものよりも高く、それがこの世界に影響し始めているのだとか。その最たる例がソフィアで、彼女は俺の魔素の影響を受けて精霊の上位存在に進化できたみたいだ。


 だから神は好き勝手に生きてくれてもいいって言ったのか。いるだけで世界に影響を及ぼせるから。


「まあしかし、私は精霊王でありますので、この精霊世界から出られません」

「そうなのか?」

「はい。でも意思疎通はできるので、いろいろと手伝えることもあるでしょうし、肉体的な手伝いはこのトキがしてくれることになると思います」


 トキ。この真っ白な犬っころはトキというのか。どうやらトキはもともと普通の魔物だったらしく、それが俺の魔素で突然変異し一部精霊化したとのこと。だから普通の世界にも行くことができるみたいだった。


「これからよろしくな、トキ」

「わん!」

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