山籠りおっさんのやりすぎスローライフ〜ウチに遊びに来る友人をもてなしていたら、世界に激震が走っていました〜
AteRa
第1話 おっさん、転生します
「タケルさぁん、タケルさぁああん!」
俺はふとそんな声で目が覚めた。しかし頭がぼんやりしてまだ眠たかったため、俺はその声を無視して寝返りを打ち、再び眠りにつこうとする。
ここ一週間くらい、上司の尻拭いのせいでろくに睡眠を取れていなかったのだ。ようやく先方との折衷案を締結させ、久しぶりにゆっくりと睡眠時間が取れる。流石に今日は休みを取っているため、気が済むまで眠りにつく予定だった。
「……って、誰だ?」
もう一度眠ろうとしたところ、ようやく現状のおかしさに気がついて一気に意識が覚醒する。そもそも俺は独身貴族の一人暮らしだ。起こしてくれる優しい彼女なんていないし、そもそも聞いたことない声だ。
違和感を覚え目を開けると、真っ白な空間にいた。立っているのか寝そべっているのかも分からない。ただ分かることは、目の前に異常なまでの金髪美女がいて、面白そうにこちらを覗き込んできていることくらいだった。
「あんたは……?」
俺が尋ねると、美女は待ってましたと言わんばかりにずいっと乗り出してきて、嬉しそうに話し始めた。
「私は女神です! 固有名はありませんが、個体ナンバーは19987ですね!」
「は、はあ……」
女神? 個体ナンバー? 何を言っているのだこの女性は。
電波すぎる女性の言葉にアホらしくなって思わずもう一度眠りにつこうとする。変な夢だがこれもきっと疲れているせいだろう。夢の中でまで疲れるのは勘弁願いたい。
「って、ちょいちょい! また寝ようとしないでください! 私だってあまり暇では無いのですから!」
「うるさい、寝かしてくれ」
「てか寝たって意味ないですよ! もう貴方は死んでるんですからね!」
「はあ、いくら夢だからって不謹慎な夢だなぁ」
もう死んでるって、そんなわけないだろ。だって昨日、俺は普通にベッドで寝たし。泥棒が入ってこない限り死ぬことはないだろうし、かと言って薄給の俺の家に泥棒が入ってくるとは思えない。
「ええと、タケルさんはカフェインの取りすぎと睡眠不足でそのまま息を引き取ったのですよ。ほら、寝る前に息苦しさとか感じませんでしたか?」
確かに息苦しさは感じたかも……。いやいや、だからって夢を見てる時点で生きてるって証拠だしな。
「そもそもここは夢の世界じゃありません。死後の世界や天界といったほうが分かりやすいでしょうか」
「死後の世界? 天界? う〜ん、俄には信じ難いけど、証拠ってあるの?」
そう言うと金髪美女は困ったように眉を寄せた。ほらみろ、証拠なんてないじゃないか。そう思っていると突然頭の中に映像が流れてきた。
俺の両親や数少ない友人たちが一つの墓の前で泣いている。何で泣いてるんだ? そう思ってよく目を凝らして墓に刻まれた名前を見てみると、そこには自分の名前が彫られていた。
「え? マジ?」
「マジです。今、現実で起こっていることです」
……マジかぁ。ってことは、本当に俺は死んでしまったらしい。いまだに信じきれない自分がいるが、こうして映像を見てしまうと現実味が一気に増す。
もともと人付き合いが得意ではなく、知人が多い方ではなかったのだが、仲良くなった相手にはトコトン気を許すタイプの人間だった。だからこういった形で別れを告げるのは凄く悲しい。
「こうなるからあまり証拠を見せたくなかったんですけどね」
「それはすまんね」
「いえ、構いません。ともかく貴方が死んでしまったことは理解いただけたでしょうか?」
美女の問いに俺は頷く。
「まあ死んだことは理解したが、なぜこんなところに呼ばれたんだ?」
「ああ、それですが、貴方には転生してもらいます」
転生……? 転生ってあの、ラノベとかウェブ小説とかでありがちなあれ?
「そうです。おそらくタケルさんが頭に思い描いているあれで間違いないです」
「しかし何で転生なんてすることになったんだ? これが普通なのか?」
「う〜ん、詳しく説明すると長くなるので端折りますが、世界には上位世界と下位世界というものがありまして、タケルさんが暮らしていた上位世界の上質な魂が、下位世界の発展に流用されることがあるのです」
よく分からんが、どうやら俺の魂は上質らしい。魂の質とか実感湧かないが。
「まあ簡単に言うと、タケルさんの魂を下位世界の発展のために転生させる、ってことになりますね」
「ふむ。でも転生したって俺はもう働くのはゴメンだぞ」
「もちろんです。タケルさんには暮らすのに困らない程度の能力を授けるので、好き勝手生きてもらって構いません」
なるほど。まあ最低限の能力が貰えて、好きに生きていいって言うなら転生してもいいかな。
「一応確認するが、転生したら最低限の能力を貰えて好きに生きていいってことだよな?」
「そうなりますね。おっしゃる通りです」
「わかった。で、能力ってどんなのが貰えるんだ?」
「それは向こうに行ってから自分で確認するのが一番いいと思います」
そりゃそうか。習うより慣れろ。ここでバッと説明されても覚えてられる自信もないしな。
「というわけで、そろそろ時間ですね。行ってらっしゃい、タケルさん」
その声を聞くと同時に意識が急激に遠ざかっていき、次の瞬間には完全に意識がブラックアウトしているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。