第45話 スイーツ店のウワサ
──とある女学生視点──
「ねえ、大通りに新しい店ができたみたいだよ」
王都にあるバーチェス学園の食堂でモソモソと昼食を食べていたら、後からやってきた友人がそんなことを言った。私はゴックンと口の中のものを飲み込むと、彼女に尋ねた。
「新しい店?」
「うん。さっき教室でみんなが話してたんだけどね、メチャクチャ美味しいらしくて」
「ふ〜ん。美味しいってステーキとか?」
あいにく私は貧乏学生だ。美味しい店といっても高級なものは食べられない。大通りに店を構えるほどなのだから絶対に高いし、そんなところに食べにいくのなんて夢のまた夢だろう。そう思っていたがどうやら違うらしく、友人は首を横にふって答えた。
「ううん、どうやらそうでもないらしくてね。あの『叡智の大賢者』様が監修した『すいーつ』って食べ物らしいよ」
ああ、最近よく聞く『叡智の大賢者』様か。もちろん学園内でもゲームやらイラストやら映画やらが流行り始めているが、全部彼一人で作り上げたと考えるのは少し眉唾だ。それにエルフの国では温泉というものも流行らせたらしく、本当に人間かと思ってしまう。
もしかすると複数人の天才を集めたグループを『叡智の大賢者』とか呼んでいるのかもしれない。魔導学会とかが流行を作ろうと意図的に印象操作していてもおかしくはないと思っていた。しかし、少なくともここ最近の話題の中心にいるのは間違いなく彼で、また何かしでかしたのは理解できた。
「それで、そのスイーツってものはどんなものなの?」
「う〜んと、甘くて口触りが良くて、とにかく美味しいらしい!」
要領を得ない回答に余計に混乱する。しかしそんな私に構わず友人は捲し立てるように言葉を続けた。
「なんかね、美味し過ぎてぶっ倒れる人まで出てきたらしいよ! ちょっと気になるからさ、今日の放課後食べに行こうよ!」
「それって本当に大丈夫な食べ物なの……? それに高級なものは食べれらないよ?」
胡乱げな視線を向けて私は尋ねる。美味し過ぎてぶっ倒れるって、変なものとか入ってたりしないだろうか? それにそんな美味しかったら絶対に高いし、そもそも買えない可能性だってある。そう思っていたが友人は人差し指を立ててチッチと振った。
「安全面と値段面に関しては大丈夫だと思うよ! そもそも店長が第二王女様だし、普通に第三王子様とかも食べられたみたいだし、値段も普通に食事するよりかは安いみたい!」
へー、そうなのか。第二王女様が店長で、さらに第三王子様も食べられたのなら、流石に変なものは入ってないか……。第二王女様や第三王子様の評判はあまりよろしくなさそうだが、流石に王族が人前であくどいことはしないだろう。
「というわけで、楽しみだね!」
「……うん、まあ楽しみかな?」
あまり楽しみではないが、とりあえず合わせるようにそう言って、モソモソと再び昼食を食べ始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。