第44話 スイーツの作り方講座
「いやぁあああああ! もうスイーツ作りたくないぃいいいい!」
それから数時間後、リンは俺のスイーツ作り講座を受けて悲鳴を上げていた。他の受講生たちは真剣な眼差しでメモを取っているというのに。思わずリンの頭をチョップすると俺は言った。
「満足したいものを作るなら、相応の努力はしような」
「……はぁい。分かったよ、頑張る」
ムスッとしながらもリンは頷いて言った。極度の面倒くさがりなのと素直じゃないだけで、やるときはやる子なんだろう。俺がそう言ってからは黙々とスイーツを作り始めた。
うんうん、みんな真面目で教え甲斐が——。
「って、つまみ食いの域を超えてるんだが!?」
目を離した隙に、リンは隣でスイーツを作っている部下のスイーツをバクバク食べていた。せっかく作ったスイーツを食べられている部下は、彼女の勢いに苦笑いをするしかない。
「う〜ん、80点! まだまだだね!」
「人の作ったものに点数をつけられる立場じゃないだろ」
ドヤ顔で批評しているリンに再びチョップをかます。そこでようやく俺に見られていたことに気がつき、ゲッと声を漏らす。
「タケルさん……! これは仕方がないことなんです! やっぱり他人の作ったものを食べて、自分のスイーツ作りに活かしていかないと……!」
必死に視線を泳がせながら言い訳をするリン。俺は思わずため息をこぼしてしまう。これは心を鬼にするしかないな。仕方がない、やっぱりあれをするしかないか……。
「リン」
「はいっ! なんでしょう、先生!」
「二十四時間耐久講座、やろうな」
俺はにっこりと笑みを浮かべてリンの肩に手を置いた。それを聞いた彼女は本日二度目の悲鳴を部屋中に響かせるのだった。
「いやあぁああああああああああ! 働きたくないぃいいいいいいいいい!」
+++
「私は魔道具。私は魔道具」
死んだ目でブツブツ言いながらスイーツ作りをしているリンに、俺は思わずやりすぎてしまったのではないかと不安になる。あれから十時間は一緒にスイーツを作り続けているが、途中から彼女の心が死にかかっている気がする。
「そろそろ休憩するか」
「……私は魔道具。ただの道端に転がってる道具」
俺が言ってもリンは死んだ目でスイーツを作り続けていた。う〜ん、やっぱりやりすぎたみたいだ。
「すまん、リン。もう終わりにしていいぞ。てか店長もやりたくないなら、やらなくてもいいからな」
そもそも無理強いするのも良くないしな。俺が反省しながら言うと、リンは虚な目でこちらを見る。これは本当に心を壊してしまったかもしれない——そう思っていたが、リンが瞬きした瞬間、目に輝きが戻った。
「ハッ!? あれ……私は今何を……? 擬態は? 鬼ごっこは?」
「……ん? 鬼ごっこ?」
何を言っているんだ、リンは? 擬態ってなんだ? 鬼ごっことは? 俺が思わず首を傾げると、リンはようやく状況を理解したのか、口元を引き攣らせながら俺に言い訳をしてきた。
「うっ……! た、タケルさん! 私は別に寝てたわけじゃないからな! スイーツを作りながら鬼ごっこをして魔道具に擬態してたなんて、そんなこと一切ないからな!」
……うん、心配して損したみたいだ。俺は軽くリンの頭をチョップすると言った。
「はあ……分かったよ、一旦休憩にしよう」
「……え!? いいの!?」
俺の言葉に目を爛々と輝かせたリンに俺は苦笑いをしながら頷く。すると彼女は机の上に置いてある大量のスイーツの試作品を抱え込むとキッチンから嬉しそうに出ていった。しかしリンは各種ケーキ、パフェ、チョコレートと高カロリーのスイーツばかり持っていったが、将来的に太ったりしないだろうか?
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