第40話 久しぶりのスイーツ

「甘いものが食べたい……」


 俺はトキを膝の上に寝そべらせ、庭でぼんやりと日向ぼっこしていたらふとそんなことを思った。別段甘いものが好きだったわけではないが、それでもたまには食べたくなる。同じく隣でぼんやりしているメイドゴーレムのユイのほうを頭だけ向けると俺は言った。


「久々にちゃんと料理しよう」

「料理ですか?」

「うん。最近は魔法で手抜きしすぎてる気がする」


 コテンと不思議そうに首を傾げるユイに俺は頷く。最近は『料理補助』に頼って、全自動で作っている。これでは怠惰すぎるし、何もしてなさすぎるので、ちょっと自分で料理をした方がいいと思ったのだ。転生直後はステーキの焼き方を覚えたり、どうすれば美味しくなるのか考えていたが、今ではそんな気力を失っていた。


「……ああ、はい。分かりました。料理のお手伝いをさせていただきます」

「何でちょっと悩んだんだ……」

「あ、いえ。ちょっと面倒くさいなと思いまして」


 最近、ユイが謀反を起こしそうで怖い。ドンドン俺に引っ張られて怠惰になってきて、全く掃除洗濯などの家事をしようとしない。まだ渋々夕方にはやってくれているが、いつ放り投げられるのかとビクビクしている。そうなったら俺が家事をしなきゃいけなくなるからな。面倒なのは俺だって嫌だ。


「てか、ユイって最近思ったことをすぐに口にするようになったよね」

「そうすればタケル様だったら要求が簡単に通せることを理解しましたので」

「え? そうなの?」

「自覚なかったんですか? それじゃあこの話はこれでおしまいです」


 マジかよ。俺ってそんなにチョロかったのか。ユイが思ったよりも手抜きしようとしていることを知り愕然してしまう。まあ確かに最近、ユイがあからさまに俺に『あ~あ、洗濯するの面倒ですねぇ』とか口にしている気がする。それを聞いた俺は……ああ、確かに『それなら明日で大丈夫っしょ。一日くらいサボっても何とかなるって』って言ってた気がする。


「……ユイ。洗濯ものって何日分たまってる?」

「おおよそ一週間分ですね」


 メチャクチャサボってるじゃないか。それを聞いた俺はユイには心を鬼にすることを決意した。


「って、そんな話をしている場合じゃない。スイーツだよスイーツ」

「何を作られる予定なんですか?」


 俺が思い出したように言うと、ユイがそう尋ねてきた。ユイは俺の記憶を流用して作っているから、知識はほぼ完コピになっている。スイーツが何であるかも、どんなものがあるのかも理解しているはずだ。……って、俺の記憶を流用したから彼女はここまで怠惰になってしまったのか? うん、このことは考えないに限る。


「う~ん、やっぱりここはパンケーキでも作るかな」

「パンケーキですか。確かにこれは美味しそうですね」


 ユイはどういったものなのかは知っているが、それがどんな味でどう美味しいのかまでは実感していないので知らない。ユイにもトキにも是非ともパンケーキを食べてもらいたい。


「トキも一緒に食べような」

「わん!」


 俺が声をかけると嬉しそうに尻尾を振りながら吠えるトキ。俺は重たい体を起こして立ち上がると、ユイを連れてリビングのキッチンに向かった。



+++



「よし、準備は完璧だな」


 俺は素材変換して材料をそろえると、エプロンを巻いてそう頷いた。ユイもエプロンを巻いて、目を輝かせている。


「料理は少し面倒ですが、パンケーキに関しては少し楽しみです」

「ああ、パンケーキは絶対に美味しいからユイも気に入ると思うよ」


 パンケーキが嫌いって言ってる人、見たことないからな。肉が嫌いって人よりもよっぽど少ないのではないだろうか。


「じゃあ作るぞ~」

「おお~。頑張りましょう」


 そして俺たちはパンケーキを作り始める。卵と砂糖と牛乳を混ぜて泡立てると今度は薄力粉とベーキングパウダーを加える。その後、フライパンに油を敷いて数分焼いて、バターを乗せると完成だ。うん、やっぱりパンケーキは楽でいい。


「出来た!」

「美味しそうですね」


 目をキラキラさせながらユイが言った。ゴーレムと言っても女性型だからな。スイーツには目がないのだろう。俺たちはそのパンケーキを皿に乗せ庭まで持っていくと、日向に当たりながら食べることにする。


「それじゃあいただきます」

「いただきます」


 俺はナイフで切り分けて一口食べる。うん、いつもの味だ。安心できる味。


「美味しいな、やっぱり」

「はい。とても美味しいです」


 目をトロンとさせ口元が緩みきっているユイを見ると、ちゃんと美味しいと思ってくれてるみたいだ。良かった良かった。そして俺たちが夢中になってパンケーキを食べていると――。


「やっほ~。って、何食べてるんだ~? 美味しそうじゃないか~」

「なんか美味しそうなもの食べてますね! 私も食べたいです!」

「それよりもゲームだ、ゲーム!」


 アンナたちがやってきて、もう三枚パンケーキを作る羽目になるのだった。もちろん『料理補助』で手抜きしました。

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