第41話 スイーツ屋を開きたい

「スイーツ屋を作りたいですね」


 ゲームで遊びつくし、午後のおやつの時間にレイナとアンナとベリアル君でフルーツサンドをモソモソ食べていると、レイナがふとそう零した。スイーツ屋か。それはいいアイデアかも。やっぱり俺が作るものだけではみんなもそのうち飽きてしまうし、新しいスイーツをみんなで考えるのも楽しいかもな。


「いいなそれ。でもみんな仕事とか忙しくないのか?」


 俺が尋ねると一斉に気まずそうに視線をそらした。……確かに今思えば最近みんな毎週のようにうちに来ているが。いつ仕事をしているのだろう?


「ええと……みんな仕事っていつしてるんだ? てかみんなの仕事自体を知らないんだけど」


 俺は遠慮がちにそう言うと、代表してレイナが答えた。


「私がS級冒険者で、アンナが宮廷魔法使いですね。ベリアルに至ってはうちの国の王子です」

「…………え!? マジで!?」


 そうなの!? みんなメチャクチャ権力者じゃん! 確かにアンナは学会で『幻影の魔女』とか呼ばれていたので凄い人なんだろうなとは思っていたが、レイナやベリアルもそこまで凄い人だとは。でもよく考えればアンナと仲良くしているレイナやベリアルが凄い人じゃないわけなかった。


「はい……実は……。隠していたつもりはないんですけど」

「それは分かるけど、驚いたな。でもそれなら猶更仕事をサボるのは大丈夫なのか?」


 そう尋ねると再びみんな気まずそうに視線をそらした。やっぱり駄目なんじゃん。


「まあ自分の時間の使い方は人それぞれだから干渉はしないけど、スイーツ屋は無しかもなぁ」

「そんなぁ……。こんなにも美味しいものをみんなに食べてもらえないのはやっぱり勿体ないなぁ……」


 確かにこの世界は娯楽も甘味も少ない。娯楽はちょっとずつ広まっているみたいだが、おそらく甘味はまだまだ少ないだろう。一応砂糖などの材料は流通しているみたいだが、その砂糖を完全に使いこなせていないのか流通はとても少ないみたいだった。


「う〜ん、じゃあどうするか」


 そうすると他の人に頼んで店長をやってもらうしかないのだが……。俺の狭い人脈じゃ店長をやってくれそうな人は思い浮かばない。そう思っていると控えめにベリアル君が手を上げた。


「あのぉ……俺の知り合いで店長やってくれそうな人、いるんですけど……」

「本当ですか!? てかベリアルさんって知り合いいたんですね」

「流石にひどくないか!? 知り合いくらい普通にいるんだが!?」


 唐突なレイナのディスにベリアル君は叫びながらも、すぐに気を取り直して椅子に座り直した。そして咳払いをするとまた話し始める。


「それはともかく、その知り合いは甘いものに目がなくてな。その上料理も得意で無職生活を満喫しているところだから時間も有り余っている。とても適任だと思うんだ」


 おおっ、それは確かに適任かも。しかしどんな人か分からないとスイーツの極意を伝授しにくいので、とりあえずそこら辺を尋ねようと思っていると——。


「それってもしかしてリンのことか〜?」


 アンナは心当たりがあったのか、ベリアル君にそう尋ねた。そんなアンナの問いにベリアル君は頷く。


「ああ、彼女のことだな」

「……なるほど〜、やっぱり彼女か〜」


 アンナは少し含みのある言い方をして考え込んだ。なんだかアンナのその反応に一抹の不安を抱いて尋ねてみる。


「どんな子なんだ、そのリンって子は?」

「う〜ん、それは会って話してみるのが一番いいと思うぞ〜」

「え、なにそれ、どういうことなんだ?」

「ともかく会って確認するのが一番って取り早いからな〜、あいつに関しては」


 しかし俺が尋ねるとアンナはそう言ってはっきりとした答えが返って来なかった。しかしレイナのスイーツ屋に対する圧の強い押しに耐えきれず俺はリンととりあえず会ってみることになるのだった。

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