第15話 ゲームで勝負しました

――レイナ視点――


「というわけで、第一回ゲーム大会の開催です~! ドンドンパフパフ」


 私の家のリビングでアンナがそう宣言する。


 ベリアルを勝負に誘ってから三日後、愚直にも彼はやってきた。というわけで私はトオルさんの作ったこのゲームで彼をボコボコにし、求婚を止めさせようと考えていた。


「ゲーム……? ゲームとはいったいなんだ?」


 ベリアルの困惑した声が響く。しかしそれに答える者はいない。アンナも私の味方だからだ。


 彼には何も分からないままゲームに負け、何も分からないまま求婚をやめてもらう。その手はずになっているのだ。


「はい。とりあえずこれ持ってください」


 そう言って私はベリアルにコントローラーを手渡した。その謎の物体を不思議そうに見つめているベリアル。


「それじゃあそろそろ試合始めるぞ~」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! この勝負は何なんだ一体! どうやって戦うんだ!」


 焦ったようなベリアルにアンナは無慈悲な言葉を投げかける。


「これはゲームという遊びで、そのコントローラーを使って戦うんだぞ~」

「コントローラーって何なんだよ! ああ、もう! くそっ、こうなったらやってやる!」


 投げやり感満載でベリアルは叫ぶと、コントローラーを握りしめた。カウントダウンが始まり、試合が開始される。


 私は棒立ちしているベリアルのキャラに最速で突っ込んでいき、攻撃を当てまくり吹き飛ばした。


「ああ! なんか死んだぞ! どうやって動かすんだよ、あれ!」


 悲痛な声が聞こえるが、私は構わずボコボコにする予定だ。もちろん慈悲はない。しかしこの試合は三ストック制で三回相手を倒さなければならないので、まだベリアルには猶予があった。


「ええと、これをこうすれば動くのか……? なるほど、これで攻撃か」


 ……ん? なんか物凄い勢いで吸収していっている。彼のほうを見てみると、私の手元をジッと観察していた。なんてこったい。い、いや、もう相手は二体目も瀕死だ。まだ大丈夫なはず……。


 そしてベリアルの二体目を吹っ飛ばし、残るは一体になった。しかし復活した直後――。


「あれれ、上手くなってるんですけど。あれれ、あれあれ、結構押されてるんですけど!」

「はははっ! こういう小手先の動きが得意なんだ、俺は! もうこれで負けないぞ!」


 自信満々にそう言うベリアル。でも確かにメチャクチャ上手くなってる。い、いや、まだ焦る時間ではない。私は三体残っていて、相手は一体だ。余裕だろう、簡単なお仕事である。


 ドゴン!


 吹き飛ばされる私のキャラ。ベリアル、メチャクチャ上手い。ど、どうしよう。


「あれれ~、おかしいな、勝てないぞ……?」


 復活してもドンドンと押されていく。ま、マズいかも……。あ、相手は一機なんだ、焦らず戦えば必ず勝てるはず。


「ああ、もう! ベリアル、上手すぎませんか!? なんでそんなに上手いんですか!」

「知らねぇよ! てか逆になんでレイナはそんな下手なんだよ!」


 ピッキーン。下手と言われて私はキレてしまった。物凄く頑張って練習してきたのだ。決して下手ではないはずだ。うん、タケルさんには勝ったことないけど、決して下手ではないはず!


「もう絶対に許しませんからね!」

「ああ、やれるもんならやってみろ!」


 そして気の遠くなるような長い攻防(当社比)ののち……。


「か、勝ちました……」


 何とか勝ちをもぎ取ることに成功した。あ、危なかった。もうそろそろでもう一機も吹き飛ばされるところだった。


「くそっ! もう少しだったのにな~!!」


 ベリアルはメチャクチャ悔しそうに声を荒らげる。そんな彼に私はこう突きつけてやった。


「ベリアルさん。これ以上は私に付きまとわないでください」

「……ああ、分かったよ。もう求婚はしない」


 あれ、意外とあっさり引いてくれた。もっと強請ると思っていたのに。


「でも、一つお願いがある」


 しかしベリアルは真剣な表情になってそう言った。その言葉に私は思わず身構える。


「お願いとは何ですか……?」

「お願いとはな……そのゲームとやらを俺にももっとやらせてください!」


 そう言った後、メチャクチャ深々と頭を下げた。これでも相手は第三王子だ。そう簡単に頭を下げていい相手ではない。


「ちょ、ちょっと頭を上げてください!」

「あ、ああ。それでゲーム機を俺にも譲ってくれるのか?」

「いえ、それは今はできないんですけど……」


 私はどうするか悩む。ゲーム機は私たちでは作れない。アンナが色々と分解して構造を調べているみたいだが、まだ解明にはかかるみたいだった。だからゲーム機を渡すことはできないが、ベリアルとゲームをすれば、私たちのゲームの腕も上がることは間違いないだろう。彼にはそれほどまでにゲームセンスがあった。


 となると――。


「分かりました。ゲーム機を渡すことはできませんが、一緒にゲームをやるのは良いでしょう」

「本当か!?」

「でも、それをダシに使って求婚するってのは無しですからね?」

「ああ、もちろんだ! 俺は今はゲームの虜にされてしまったからな!」


 胸を張ってそういうベリアル。

 こうして毎日毎日レイナの家に三人は集まって、仕事もせずにゲーム三昧の日々が始まるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る