第23話 魔王、襲来!?

 レイナたちがホクホク顔で帰ってから一週間ほど、俺は彼女たちとオンラインでゲームの対戦をしながら日々を過ごしていた。


「オンラインを導入してからレイナとアンナの力量が日に日に増してる……。ベリアル君はなんか逆に下手になっているような気もするけど。おそらく考えすぎて一旦沈み込むタイプなんだろうな。だとすればベリアル君もすぐに化けるだろうし、こりゃ気が抜けないぞ……」


 絶対にすぐに打ち負かされる日が来てしまう。そしたら新しいゲームを作らないとな。新しいゲームならまた彼女たちは振り出しに戻るし。……大人気ないって? ふはは大人気ない結構! 俺はゲームでは勝ち続けて気持ちよくなりたい人間なのだ!


 と、そんな馬鹿なことを考えていると家のチャイムが鳴った。インターフォンに応答してみると——。


「なんじゃこれは? これを押せばいいのか? おーい、誰かいないのか?」


 インターフォンのディスプレイには魔族風ロリっ子の顔が画面いっぱいに映り込んでいた。おそらくインターフォンを見慣れておらず、マジマジと見つめているのだろう。


「しかし高度な魔道具じゃな。こんなんうちの部下たちでも作れないだろうな」


 そうか? インターフォンなんて簡単な部類に入ると思うけど。まあともかく声をかけてみよう。


「もしもし、うちに何か用か?」

「——ぎゃぁあああああああああ! 喋ったぁあああああああああああ!」


 俺がスピーカーを通じてそう声を出すと魔族風ロリっ子は驚きすぎて腰を抜かしていた。……う〜ん、なんか申し訳ないことしちゃったか?


 仕方がないので俺は玄関を開けて直接彼女と顔を合わせることに。


「あ、どうも。タケルですけど」

「ああ、ご丁寧にありがとうじゃな。妾は魔王ロッシュフォードじゃ。ロシュと呼んでくれれば幸いじゃな」


 俺が出て行って丁寧に挨拶をするとロリっ子——ロシュもへたり込みながらも丁寧に頭を下げた。


「……って、魔王?」


 俺はふと気になって首を傾げる。魔王って、あれか? いわゆるRPGとかに敵役で出てくるあの魔王か?


 俺の言葉を聞いたロシュはいきなりバッと立ち上がると、腰に手を当てて無い胸を張り堂々と言った。


「そうじゃ! 妾こそこの世界最強になる女、魔王ロシュなのじゃ!」

「……はあ、そうですか」

「なんじゃその目は! 信じてないって目をしてるぞ!」


 いや、信じられませんって。インターフォンでビビって腰を抜かしているロリっ子が魔王なんてねぇ……。ラノベの世界の話だけだってそんなの。


「くそう……! いつも人間はそうやって馬鹿にしてきて! 前に襲おうとした人間の街でも信じてもらえず串焼き屋のおっちゃんに可哀想な目で串焼きを渡されただけだったんじゃぞ!」


 それを聞いた俺はふと悪戯心が湧き起こり、前に狩ったドラゴンの串焼きをストレージから取り出す。


「って、おお! わ〜い、串焼きじゃ! 妾、串焼きだぁいすき!」


 俺が取り出した串焼きを彼女に手渡すと嬉しそうに受け取った。……魔王とは。そして彼女はそれを一口食べてその美味さのあまり失神してぶっ倒れてしまうのだった。



+++



「……はっ!? 悪い夢を見ていたような。って、ここはどこじゃ?」


 俺はロシュを家のベッドに寝かせ看病しているといきなり起き上がった。


「あっ、おはようロシュ」

「おはようじゃな……って、なんで妾は敵の家で寝ているのじゃ!」

「敵?」

「そうじゃ! 妾は其方の放つ高純度の『聖属性』の魔素のせいで妾たち魔族の戦闘意欲が削がれてしまっているのじゃ! これは魔族にとって損失なのじゃ! だから排斥しにきたのじゃ!」


 あー、なるほど。俺の持つ上位世界の魔素(どうやら聖属性らしい)の影響が広がっていて、それによって彼女たち魔族の心情が変化し始め、戦闘意欲が削がれていっていると。なるほどなるほど……って、そんな都合のいい話があるか! 俺がそんな凄い存在だとは思えないんだけど。


「……やっぱり信じてないって顔をするのじゃ! なんでなんじゃあ!」

「あっ、うん、ごめん。そうだよな、分かった」

「……な、何が分かったのじゃ?」

「——くそっ、魔王め! とうとう俺の存在を嗅ぎつけやがったな! この場所がバレてはもうお終いだ!」


 うん、やっぱり子供の夢を壊すのも良くないよな。ちゃんとごっこ遊びには付き合ってやらないと。そう思って俺は演技をし、その大根役者ばりの演技を見たロシュは、嬉しそうにぱあっと目を輝かせて胸を張った。


「そうじゃ! 妾が魔王なのじゃ! ふははっ、恐れ慄くがいい!」


 ちょろかわいい。思わず優しい目になりかけるが頑張って衝動を抑えると、俺は切羽詰まった演技で言った。


「くそっ! 魔王に俺の弱点がバレるわけにはいかない!」

「弱点じゃと! その弱点とはなんじゃ!」

「ゲームという遊びで負けると(プライドに)傷を負ってしまうという弱点なんて、言えるわけないだろ!」


 俺が言うとロシュは目を輝かせた。


「おおっ! それはいいことを聞いた! こいつが馬鹿で助かったのじゃ! 早速ゲームをするのじゃ!」


 こうして俺はもう一人、ゲーム仲間に引き摺り込もうとするのだった。そうすればレイナたちと対戦せずにコソ練が出来るようになるからな! 俺って頭いい!

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