第48話 スキー板を作ろう!

「地下室に来たのはいいものの、結局これを使うだけなんだよな……」


 俺は呟いて『クリエイト・マジックアイテム』のウィンドウを表示させる。魔道具を作るスキルだから、もしかするとスキー板は作れないかもしれないが、物は試しだ。鉄やら木やら、素材になりそうな物を手元に用意して、早速ウィンドウを操作。するとスキー板のボタンが表示されていた。


「さて、今から作るぞー」

「おお~、楽しみだな~」


 俺の言葉にワクワクといった表情でアンナが言う。一番異世界の物に興味がありそうだし、一番好奇心が強いのがアンナだからな。でもレイナもベリアルも興味深そうにこちらを見てきている。俺はウィンドウのボタンをポチッと押した。


「おっ、出来たな」


 目の前に一対のスキー板。ちゃんとブーツの留め金も現代式だ。


「いたっ!」


 アンナが出来立てのスキー板を手に取ろうとして、エッジで指を切ってしまったようだ。血がたらりと垂れる。あるあるだよなぁ。俺も子どもの頃はスキー板の裏面にワックスを塗るときに指を何度も切ったものだ。アンナは回復魔法で自分の指の切り傷を治すと言った。


「すっごい鋭利だな~。でもなんでこんな鋭利なんだ~?」

「いや、俺も詳しくは知らんけど、このエッジを雪面に立てると曲がれたり止まれたりするんだよ」


 物理学に関しては詳しくないから詳細なことは何も言えないけど、とりあえず使い方だけは伝えておく。俺の適当な説明にアンナはほへ~と感心したような声を出した。ベリアルはアンナが指を切ったのを見て恐る恐るスキー板に手を伸ばすと、そっと触れて言った。


「これに足をくっつけて雪の斜面を滑るってことか。確かに多少は運動にはなるのか……?」

「結構疲れるんだよな、これ。思ったより体中の筋力を使うんだよ」

「そうなのか。あんまり想像がつかない運動だからか、そんなイメージは一切ないけどなぁ。結局、雪の斜面を滑るだけだしな」


 懐疑的なベリアル。まあ前世の日本とこの世界では根本的に人間の運動量が違うからな。街から街に歩いていくなんて、前世では考えられない行為だしな。車も電車もないとか、そりゃ運動量増えるわ。だからこそ、スキーでちゃんと運動になるのかは少し不安ではある。これで飄々とされたら少し落ち込むかもしれない。ほとんど運動してこなかった自分に対して。


「とと、次はブーツも作らないとな」


 俺はそう言って再び『クリエイト・マジックアイテム』のウィンドウを表示させる。ちゃんとスキーブーツも表示された。そして現れた鉄製のゴツいブーツを見て、レイナが顔をしかめて言う。


「めちゃくちゃゴツいですね……。これじゃあ歩きづらそうです」

「まあ別に、歩くためのもんじゃないしな。クソ重いし、これで歩くだけで普通に疲れる」


 このブーツを履いて駐車場からスキー場に向かうだけで、普通に疲弊する。それが一番疲れると言っても過言ではないかもしれない。足の指も曲げられないから、ヒョコヒョコみたいな歩き方になるんだよな。


「よしっ、これで準備完了だな。後は人数分作って、明日山まで滑りに行くか」


 俺が言うとベリアルが呆れたようにこう言うのだった。


「結局、今日じゃないのかよ……」



   ***



「おお~、速いな~!」


 斜面をもの凄い勢いで滑走していきながら、アンナが叫ぶ。速すぎて、若干音を置き去りにしてエコーがかかっているみたいになっていた。そりゃターンもなしに一直線に下って行ったらそうなる。


「ふぎゃ!」


 あっ、こけた。ずざぁっと数メートル雪面を転がっていき、ようやく止まった。ああ、あれは痛いぞぉ。スキーは何度も転んで慣れていくものだけど、あの痛みは結構だと思うな。俺はターンを繰り返しながら滑っていき、アンナの傍で雪を散らしながら止まる。


「大丈夫か?」

「……なんとか」


 俺はハの字にしてがっちり止まると、アンナのほうに手を伸ばす。そしてひっぱり上げて起こした直後――。


「うわぁああああぁああ! 止まらないんですけどぉおおおおぉおお!」


 俺らの横をレイナがもの凄い勢いで滑走していった。


「……大丈夫、あれ?」

「いや、まずいかも」


 俺は短くそう言うと、急いで滑り出し、レイナを追っていく。雪煙を立てながら滑走していくレイナに何とか追いつくと、俺は叫んだ。


「レイナ、ハの字にするんだ!」

「ハの字……!? なんですか、それ~!」


 あっ、そうか。ここ異世界だから、ハの字って言っても伝わらないのか。なんか普通に言葉が通じてたから気が付かなかったよ。もしかして神様の力的なやつとか、全知全能スキルとかで翻訳してくれてるのだろうか。……って、そんなこと考えてる場合じゃない。どうしよう。そう悩んでいたら、目の前にでっかい雪の塊が見えた。どうやら近くの大きな木の葉に積もっていた雪が落ちて積もったみたいだった。


「あっ……」


 俺は思わず声を上げる。ぽすっという音とともにレイナは雪の塊に突っ込んだ。そして反対側からポンっと吐き出される。


「……ふぅ、止まってよかった」

「良くないですよぉ! おかげで体中が雪だらけです。……へっくしょん! うぅ、寒い」


 これじゃあ風邪引いちゃうよな。まだ滑ってないベリアルには申し訳ないが、いったん今日は帰るとするか。

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