第48話「八重垣家にて」
──その後、
「
その言葉を口にしたのは、八重垣家の当主だった。
彼女の名前は、八重垣
東洋魔術の名家である八重垣、
「ノーザンライトの力を借りたのは、まぁいいでしょう。織姫なくして人命救助は果たせなかったことは、
「……はい」
「あなたの情報は、とても役に立ちましたよ。
「…………ありがとうございます。当主さま」
畳の間に
彼女の名前は、
八重垣織姫の幼なじみで、
「『ディープ・マギウス』──口にするのも汚らわしいあのサイトに、『特異点』が関わっているという
「
「聞いています。そのために『ディープ・マギウス』と関わったのでしょう?」
当主は口を押さえて、笑った。
「あさましいことね」
「……当主さま」
「あの程度の者が『ディープ・マギウス』に関わって、無事でいられるわけがないでしょう?」
「六曜さまは……自尊心の強い方でいらっしゃいました」
「あら? 瑠衣は六曜をかばうのかしら?」
「…………いいえ」
瑠衣は平伏したまま、首を横に振った。
「あの人は……織姫さまを超えられないことの怒りを、私に向けていました」
「
八重垣の当主は、ぱん、と膝を叩いた。
「八重垣家と七柄家は、今後、六曜家との関わりを断ちます。
くくく、と、喉を鳴らして笑う、当主。
「
「…………はい」
「感想は? 瑠衣」
「……
「そうでしょう。八重垣の当主ともなると、
当主は和服の
「ところで、瑠衣はこれからどうするつもりなのかしら?」
「一般人として生きていくつもりです」
「では、八重垣の関連会社に席を用意しましょう」
当主は薄笑いを浮かべて、告げる。
「そこで一般の社員として生きなさい。生活は保障します。あなたは貴重な人材なのですから」
「ありがとうございます。当主さま」
「あなたの行く先は、魔術結社『
「……え」
瑠衣の背中が、ぴくり、と震えた。
彼女はゆっくりと、顔を上げる。
恐怖に引きつった顔が、あらわれる。
「一般人として……生活するのでは……ないのですか」
「ええ、だから一般の事務員として織姫の補助をするのです。経理や事務は、六曜の付き人をしながら学んだでしょう? 同じことを、織姫の側ですればいいだけです」
「……当主さま」
再び平伏する瑠衣。
その背中が、ガタガタと震えていた。
「当主さまは……六曜さまが弱小異能者をたばねて、チームを作るのを
「あらあら、そんな報告を受けていたかしら?」
「私が……六曜さまが『ディープ・マギウス』と接触されたことをお伝えしても……なにもおっしゃいませんでした! 当主さまは、なにも!! 当主さまは六曜さまの暴走をわざと見逃されて──」
「あら。どうしたのかしら、よく聞こえないわ」
「…………とうしゅ、さま」
「敵を知るのは戦いの基本でしょう? 私は正しい側に立つ異能者として、邪悪なる『ディープ・マギウス』の情報が欲しかっただけ。そうしたら
「………………六曜さまが……『ディープ・マギウス』の情報を得るように仕向けたのは……まさか──」
「瑠衣に命じます」
瑠衣の言葉を
震える瑠衣を見下ろしながら、彼女は、
「魔術結社『神那』の事務員として、織姫の側にいなさい。あの子のすることを定期的に、私に報告するのです。それと
「ノーザンライトの動画を?」
「ええ」
「当主さまはノーザンライトが、織姫さまの障害になると?」
「私が危険視しているのは、ブラッド=トキシンです」
当主の答えは、短かった。
「あれが使う異能は、東洋魔術でも西洋魔術でもない。目をつけておくべきでしょう。その正体を探りなさい」
「……当主さま」
「それが役目よ。復唱しなさい。瑠衣」
穏やかな笑みを浮かべながら、当主は瑠衣に近づく。
平伏して震える彼女の顎に手を掛け、顔を上向かせる。
そうして、瑠衣の
「おびえなくてもいいの。私はあなたを処分したりはしないから」
「……当主さま。私を……解放して、ください」
「駄目。あなたのように身の程をわかっている者は、可愛くて仕方ないんだもの」
「…………あ、あ、あ」
「織姫にこんなことをしたら、反発して、どんな変化を遂げるかわからない。もしかしたら、私を超えてしまうかもしれない。でも、あなたはそうじゃないでしょう?」
まるで、愛おしいものにそうするように、当主は瑠衣の頬をなで続ける。
「あなたは変わらない。なにもしても変わらない。
「…………当主さま」
「返事は?」
「…………はい」
「よろしい」
その反応に満足したように、当主は瑠衣から離れた。
それから、ため息をついて、
「心配しなくていいわ。八重垣はなにも変わらない。これからも東洋魔術を
当主は、そんなことを宣言した。
「私が生きている間は、好きなようにやらせてもらいます。私──八重垣葛葉が望むように。闇と光のあわいを漂う、神秘の家として」
『るるる』
呼ばれたと思ったのか、小さな
その背中をなでながら、当主は笑う。
そうして手を振り、瑠衣に退出を命じる。
八重垣家の目的を果たすための、次なる手段について、考えをめぐらせながら。
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今日は2話、更新します。
次回、第49話は、今日の夕方くらいに更新する予定です。
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