第12話「はじめての合同配信(4)」

「魔界にはさまざまな魔物が生息しています」


 蛍火ほたるびは説明を始める。


「『グレムリン』や『ゴブリン』は、魔界で自然発生した生き物です。でも、わたしたちが倒したゴーレムは、電化製品が集まってできていましたよね? 皆さんは、どうして家電がゴーレム化すると思いますか?」



騒霊ポルターガイストって、付喪神つくもがみの親戚じゃなかったか?〉

〈付喪神は長い時間を過ごして、意思を持つようになった道具のことだよな?〉

〈じゃあ、魔界では時間の流れが早いとか?〉

〈そういう魔術が使われてるんじゃねぇの?〉

〈かっこいいからです!〉



 コメントが増えてきてる。

 視聴者が蛍火の話にきつけられている証拠だ。


「実は、魔界にいるのは実体を持つ生き物だけじゃないんです。形を持たない生き物……幽霊ゴーストのようなものもいるんです。それが家電や、様々なものに取りついて、騒霊ポルターガイストや、付喪神つくもがみを生み出しているのです」



〈〈〈なるほどっ!〉〉〉



「実体を持たないゴーストは、自分が取りついた相手の姿かたちに影響を受けます。例えば──」


 蛍火はカメラに視線を向けながら、説明を続けてる。

 きりりとしたその姿は、気品にあふれてる。本当に貴族のようだ。

 たぶん、視聴者もそこに引きつけられてるんだろうな。

 俺は彼女が説明をしている間、邪魔が入らないようにしよう。


「──つまり、電子レンジに取りついたゴーストは電子レンジのようなふるまいを。冷蔵庫に取りついたゴーストは冷蔵庫のようなふるまいをします。身体に精神が引きずられるわけですね」



 ごすっ!

 ずとっ!

 ひゅーん!



「ゴーレムの中からコアを取り出すことで、家電はもとの物体に戻ります。え? こわれた家電はどうするのか、ですか? 廃品はいひんとして、業者が引き取ってくれます。部品に使われている金属がリサイクルできますからね」



 べきばきべきっ!

 ずごぁっ!

 ばきぐしゃっ!



「え? カメラの外で、変な音がする? それはトキさんが、敵を倒してくれている音ですね。あ、はい。今、通路にいる魔物を全滅させました」

「イーザン」


 俺は鉄パイプを手に、蛍火の元に戻った。

 倒した魔物は15体。

 内訳は『グレムリン』が10。『騒霊ポルターガイストゴーレム』が5。もちろん、すべてのコアを回収してる。

 はじめての仕事にしては、いいペースだと思う。



〈……あの使い魔、ゴーレムを瞬殺しゅんさつしてるんだが〉

〈……あのサイズの化け物って、倒すのに苦労するものじゃ?〉

〈……戦闘中にゆっくりと実況する配信者ってはじめて見た〉



「そうです。トキさんはすごいんです!」



〈梨亜さまが笑ってる。かわいい……〉

〈いつもよりリラックスしてる〉

〈これが本当の梨亜=蛍火=ノーザンライト……〉

〈りあちゃんかわいいー〉



 そんな応援を受けながら、俺たちは『家電量販店』を進んで行く。

 1階の生活家電コーナーを抜けると、パソコンコーナー。

 その先には、地下へ続くエスカレーターがある。

 敵は排除した。このまま進んでも問題ないはずだけど──


「ギルドからもらった地図によると、この店に地下はないはずです」

「ニーデル (どういうこと?)」

「おそらくは、魔界化の影響でしょう。魔界化した場所は空間がゆがみます。存在しない階や、地下通路ができたりします」

「イーザン (ということは……)」

「はい。新たに発生した場所に、魔界化のコアがある可能性が高いです」

「イーザン! (行こう。マスター)」

「はい。行きましょう。トキさん」


 なんとなく話を合わせながら、俺たちは先に進んで行く。

 まわりには商品陳列棚。それが天井まで伸びて、複雑な迷路を作っている。

 これも魔界化によるものなのか。


『魔術で世界がおかしくなるなんて信じられない。なにかの陰謀いんぼうだ!』


 なんて言う人もいるけれど、それは違う。

 俺みたいに、異世界に召喚された人間もいるからな。

 強力な異能者が集団で儀式をすれば、世界を変えることもできるんだろう。


「気をつけてください。トキさん」


 不意に、蛍火さんが足を止めた。


「強い魔力を感じます。魔界のコアが近いのでしょう。コアの近くには強力な魔物がいるものです。ご注意を!」



『グォアアアアアアアアアア──────ッ!!』



 蛍火が言った瞬間、叫び声が響いた。

 地下に向かうエスカレーターの、その先からだ。


 俺は鉄パイプを手に走り出す。

 エスカーターの向こうに、地下通路が見える。

 その先で──光が連なっている。まるで電車の窓の灯りのようだ。


 それがゆっくりと動き出す。

 がりがりと、床をこする音がする。


「イーザン (敵がいます)!!」

遅延魔術ディレイ・マジックを解放! 『火炎弾ファイア・ブリッド』、5連!!」


 ノーザンライトが即座に反応。

 詠唱えいしょうを省略 (「あらかじめ唱えておいた」ことに)して、杖から火炎弾を発射。

 火炎弾を追うように、俺はエスカレーターを駆け下りる。


 どぉん、と、音がして、火炎弾が弾けた。

 飛び散った炎が、地下の光景を照らし出す。

 そこにいたのは──巨大なムカデだった。


「ニーデル (なにあれ)?」

「ワームです! しかも……家電と一体化してます……」


 ワームの長さは、10数メートル。色は黒。

 表面はてらてらした殻におおわれている。

 身体からは、ブロック状のものが生えてる。時々、光を点滅させているあれは……パソコンか? 頭にはディスプレイのようなものがついてるし。


 ディスプレイやパソコンと融合した『ワーム』……つまり『PCワーム』ってことか?



〈パソコンと一体化したムカデだと!?〉

〈それになんの意味が!?〉

〈大量のWEBカメラもついてるけど!?〉

〈よくわからないけどがんばれー〉



「がんばります! もう一度──『火炎弾ファイア・ブリッド』!!」


 ノーザンライトが再び『火炎弾』を放つ。

 けれど──



 ひょいっ!



 ワームはあっさりと火炎弾を避けた。


『グゥォアアアアアア!!』


『火炎弾』を避けたワームが、エスカレーターを駆け上がる。

 奴はそのまま蛍火のいる方に向かう。

 けれど──



 ガィン!



 俺の鉄パイプが奴の動きを、食い止めた。

 でも、こいつは……強いな。

『身体強化』してる俺と、力で拮抗きっこうしている。


 奴の身体についているWEBカメラが、一斉に俺を見る。

 巨大ムカデの身体には、大量のパソコンが生えてる。

騒霊ポルターガイストゴーレム』と同じように、家電の機能を利用してるのか?

 蛍火の魔術が避けられたのは、そのせいかもしれない。


 ……ん。待てよ。

 俺は今、鉄パイプを通してこいつに触れている。

 ということは、『鑑定かんてい』スキルが使えるはずだ。


 やってみると──


──────────────────────


『■■ワーム』


 ムカデ■■と、魔物■■、融合■■■■■。

 演算能力えんざんのうりょく■■、回避や攻■に利用している。


──────────────────────


 情報が出た。

 だけど、ところどころ欠けてる。アイテムを鑑定かんていするみたいにはいかないか。

 それでも、ある程度の情報は手に入った。



 がきぃんっ!



 俺は鉄パイプで『PCワーム』を殴ってから飛び退く。

 蛍火のところに戻って、彼女の耳元にささやく。


「蛍火さん。あの化け物は……」

「はい。『ワーム』です。主に地下や洞窟などに生息して、人を襲います」

「しかも、あれはパソコンと合体してるようです。高機能のゲーミングパソコンの演算能力を使って、回避や攻撃に利用してるんだと思います」

「あの……桐瀬きりせさん?」

「はい」

「どうしてそんなことまでわかるんですか!?」

「普通はわからないんですか?」

「わかりませんよ! 魔物の能力を調べるなんて……」

「……声が大きいです」

「……むー」

「とにかく、敵はすごい回避能力を持ってます。おまけに大量のWEBカメラで、こっちの様子を観察してます。倒すには、動きを止めなきゃ駄目そうなんで……とりあえず、やってみます」

「トキさん……危ないことしますか?」

「しません。軽い接近戦をするだけです。それより、蛍火さん」

「はい」

「さっき倒した『騒霊ポルターガイストゴーレム』と『グレムリン』のコアを使ってもいいですか?」

「もちろんです」

「ありがとうございます。それじゃ、合図したら魔術で攻撃してください」

「了解しました!!」


 打ち合わせを終えて、俺たちは動き出す。


 俺には異世界で身につけた『属性付与』スキルがある。

 これは対象物に属性を加えて、強化するものだ。


 このスキルと魔物のコアを組み合わせれば、強力な武器を作れるかもしれない。




──────────────────────






 次回、第13話は、今日の夕方くらいに更新する予定です。


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