第11話「はじめての合同配信(3)」

 ──柳也視点りゅうやしてん──



 うん。わかった。蛍火ほたるびは言葉が足りない。

 そのせいで、視聴者が置いてけぼりになっちゃってる。


 彼女はたぶん、視聴者のことを全面的に信じている。

 俺──使い魔のブラッド=トキシンのことも、無条件に受け入れてくれると思っている。説明が足りないのはそのせいだ。


 蛍火は……いい人なんだけどな。ちょっとあやうい。

 仕事の間はできるだけフォローしよう。


「ニーデルニーデル (ちょっとちょっと)」


 俺は蛍火の手を放して、そのそでを引っ張った。

 それから、かぎ爪のついた指で、鉄パイプを指さす。


「え? 武器の説明をした方がいい……ですか?」

「イーザン (はい)」

「は、はい。説明しますね。トキさんの鉄パイプは、魔術で強化されているんです。トキさんには手にしたアイテムを、魔術的な武器にする能力があるんですよ!」


 ──と、いうことにしてあるけど、正確には違う。

 俺は手にしたものに、属性を加えることができるだけだ。

 鉄パイプを選んだのは、安くて、それなりに強化しやすかったからだ。


 この鉄パイプには『火』属性を加えてある。

 そうすることで、鉄パイプは『魔術で強化された武器』になってる。

 だから魔物にも、ちゃんとダメージを与えてくれるわけだ。


 俺はその鉄パイプで『グレムリン』と『騒霊ポルターガイストゴーレム』をぶんなぐった。蛍火が引き立つように、他の敵を一掃したんだ。

 これで使い魔の役目は果たしたと思うんだけど──


「というわけで、トキさんはすごいんです。みなさんも、わたしと一緒にトキさんのことを応援してください! さぁ、ご一緒に──」


 いや、俺をしてどうするんですか。蛍火さん。


「……イーザン」


 俺はカメラの範囲から外れて、『グレムリン』と『騒霊ポルターガイストゴーレム』の死体をチェックする。

 魔界そのものにコアがあるように、魔物にもコアがあるらしい。

 それを集めて売ることで、収益を得ることができるとか。


『攻略配信』による俺の利益は15パーセント。

 これには広告収入も含まれている。


 でも、広告を見てくれる視聴者たちは、蛍火が苦労して集めたものだ。

 俺はそれに乗っかる感じになってる。だからその分、役に立たないと。


 蛍火さんが視聴者と話をしている間、魔物のコアを回収しておこう。

 うん。遺体のところに、小さな結晶体があるな。

 これが魔物のコアかな。鑑定かんていしてみよう。

 えっと──


──────────────────────


 コア:種族『グレムリン』

 レアリティ:D

 属性:妨害。混乱。


──────────────────────


 これが『グレムリン』のコアの情報だ。

 価値は中の下。コアが所有している属性は『妨害』。

 次に『騒霊ポルターガイストゴーレム』のコアを鑑定すると──


──────────────────────


 コア:種族『騒霊ポルターガイストゴーレム』 (騒霊、および付喪神つくもがみの一種)

 レアリティ:D+

 属性:意思獲得。自律駆動。


──────────────────────


 なるほど。

『騒霊ゴーレム』は魔界のせいで意思を持つようになった。

 そのコアだから『意思獲得』『自律駆動』がついてるのか。参考になるな。


「というわけで、わたしとトキさんは騒霊化したゴーレムを倒しました」


 蛍火はカメラに向かって宣言した。


「では、先に進みましょう!」

「……ニーデル (待って待って)」

「え? どうしたんですか? トキさん」

「………… (くいくい)」


 だから説明が足りてないんだってば。

 蛍火は『グレムリン』や『騒霊ゴーレム』のことを、視聴者がわかってる前提で話をしてるよね?


 蛍火は優秀だから、わからない人間のことが、わからないのかもしれない。

 バイト先にもいるからな。

 見ればわかるんだから説明なんか不要だろう、って人。


 でも、それじゃ視聴者に不親切だ。

 だから──


「……騒霊ポルターガイスト付喪神つくもがみのことを、もう少し詳しく説明した方がいいんじゃないですか?」


 俺は小声で、蛍火の耳元にささやいた。

 でも、蛍火は不思議そうな顔で、


「え、でも……そういう説明はしたことがないんですけど」

「ないんですか?」

「動画を見にくる人は、魔界や『攻略配信』のことをわかっているはずですから」


 なるほど。

 やっぱり蛍火は『わかっている側』で考えているわけか。


「異世界でアイテムの強化をしてたって話はしましたよね?」

「あ、はい。聞いています」

「流れ作業でした。左からアイテムを渡されて、強化して、右の人に渡すといった感じです。できあがったものをチェックしてもらって、よければ現場の人間に渡す感じですね」

「は、はぁ」

「でも、俺は右利きです。左側からアイテムを渡されると作業がやりにくいんです。利き腕なんて見ればすぐにわかるから、向こうが位置を変えてくれるだろうと思ってたんですけど……結局、俺が言うまで変えてくれませんでした。半年くらいかかりました」

「あの……それがなにか」

「自分にはわかりきってることでも、他の人は意外と気づかないものなんですよ」


 蛍火の相手は視聴者だから、異世界人よりは詳しいと思うけど。

 でも、コメントを聞いてると、たまに微妙な反応が来てる。

 魔物のことは、じっくりと説明した方がいいと思うんだ。


「視聴者さんを増やすためにも、こまめに説明をした方がいいと思います。そうすれば、『配信のことがわかっていない人』も観てくれるんじゃないでしょうか?」

「……こまめに説明を」

「とりあえずは俺に『付喪神つくもがみ』について説明してみてください。そうすれば視聴者さんにもわかると思います」

「なるほどです! 了解しました!」


 蛍火は、ぽん、と手を叩いた。

 目を輝かせて、何度もうなずく。

 それから彼女は、カメラの方を見て、


「そ、そういえば『騒霊ポルターガイストゴーレム』は強敵でしたね! トキさん!」

「イーザン (はい)」

「そういえばトキさんは『騒霊』や『付喪神』のことを知っていますか!?」

「ニーデル (知らないなぁ)」


 俺は両手を挙げて、大げさに首を横に振る。


「ニーデルニーデル、ニーデル! (わからない。さっぱりわからないよー)」

「そうですか!? では、トキさんにもわかるように説明しますね!!」


 やっぱり蛍火は飲み込みが早い。

 俺の言いたいことを理解して、視聴者向けの説明をはじめてる。

 ちゃんとカメラ映えするようなポーズを取って話してるのも、さすがプロの配信者って感じだ。


 このプロ意識は、俺も見習わないと。

 次回からペンとホワイトボードを用意しよう。

『はい』と『いいえ』だけだと、会話が難しいからな。


「それでは、歩きながら説明しましょう!」


 そうして蛍火は通路を進みながら、倒した魔物について説明をはじめたのだった。





──────────────────────



 次回、第12話は、明日のお昼くらいに更新する予定です。

 しばらくの間は、お昼と夕方の、1日2回更新になります。



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