第10話「はじめての合同配信(2)」

 あの人・・・の攻撃は、徹底てっていしていました。

『グレムリン』を念入りに叩きつぶしたあとは、バラバラになった『騒霊ポルターガイストゴーレム』に近づきます。そして、攻撃再開です。


 電子レンジの扉をたたき割り、サーキュレーターの羽根を砕いて──って、そういえばあの人が『騒霊ゴーレム』を倒したとき、後ろから殴ってましたね。いつの間に『騒霊ゴーレム』の背後に回ったんでしょう……?


『ヒ、ヒィィィ!』『ギガアアアアアッ!!』


 生き残りの『グレムリン』が逃げ出します。

 でも、あの人の動きの方が速いです。圧倒的です。



 グシャァ! バキィッ!!



 鉄パイプが、生き残りの『グレムリン』を叩き潰します。

 生き残りの『騒霊ポルターガイストゴーレム』は一体だけです。


 あの人はわたしの方を見て、うなずきます。

 ……なるほど。

 ここからはわたしの見せ場ということですね?


 そのためにあの人は、他の『騒霊ゴーレム』を倒して、『グレムリン』も処理してくれているのです。

 さすがです。レーナがお願いした通り、見事に露払つゆはらいをしてくれてます。

 納得して、わたしは魔術を発動します。



「『無限のつぶてにより、我が敵を討ち滅ぼせ』──『岩石弾ストーン・ブリッド』!!」



 がごんっ!



 魔術が生み出した岩のかたまりが、『騒霊ゴーレム』に激突します。



 がごんっ。がごがごんっ!!



『岩石弾』ひとつの大きさは拳大こぶしだい

 それが『騒霊ゴーレム』に殺到さっとうします。

 一発が電子レンジの頭を砕き、冷蔵庫の胴体をへこませます。

 わたしは魔力を注ぎ続け、『岩石弾』の攻撃を続けます。



 ががががががっ!!



 サーキュレーターの腕が砕けます。扉をなくした冷蔵庫に岩石弾が飛び込み、風穴を開けます。敵は風で岩石弾の軌道を逸らそうとしますが、それも無駄な抵抗です。岩石弾は『騒霊ゴーレム』の身体を、次々に砕いていきます。



 ががががががががががっ!


 ひゅーん。ひゅーん。べちゃべちゃっ。



〈りあちゃんがんばれー〉

〈……いや、ゴーレムの後ろで『グレムリン』が吹き飛んでるんだが〉

〈……他のゴーレムも次々に破壊されてる!?〉

〈……鉄パイプを振り回してるあの黒ずくめって、何者?〉

〈誰?〉

〈誰?〉

〈誰?〉



 コメント欄が疑問符ぎもんふで埋め尽くされています。

 みんながおどろくのもわかります。わたしもびっくりしてますからね。


 あの人にはサポートをお願いしました。

 だから、わたしが魔術を使っている間、別の敵が来ないようにしてくれているんです。

 ……まさか、まわりの敵を一掃いっそうしちゃうとは思いませんでしたけど。



 ひゅーん。べちゃ!

 ひゅーん。がちゃん!

 ひゅーん。ガギグシャドガン!!



『家電量販店』内に、破壊音が響きます。

 通路の壁には、吹き飛ばされた『グレムリン』たち。

 壁に血痕けっこんを残して、ずるずると床に落ちていきます。

 落ちたところに再度一撃。

 あの人は、とどめを刺すことを忘れません。


『騒霊ゴーレム』は部品をまき散らしながら、『グレムリン』たちと同じ場所へと落ちていきます。『グレムリン』の遺体を冷蔵庫が押し潰して、魔物と家電のオブジェを作り出しています。

 前衛的です。かわいくはないですけど。


 でも、すごいです。

 あの人なら、すぐに上位の配信者になれるのではないでしょうか……?



〈あの黒ずくめは誰?〉

〈説明して〉

〈説明して〉

〈説明して〉

〈説明して!!〉

〈みんながんばれー〉



「ちょっと待ってくださいね」


 敵がいなくなったのを確認してから、わたしは答えます。

 レーナにお願いして、カメラ妖精の位置を確認してもらって……。


「梨亜=蛍火=ノーザンライトと、その使い魔ブラッド=トキシン! 邪悪な敵を掃討そうとうしました!」


 わたしは杖を構え、びしり、と、ポーズを取ります。

 ……あれ? コメントらんが沈黙していますね。

 しまった。桐瀬きりせさんが、見切れてます。


「あ、あのあの。ちょっとこちらに来てください」


 わたしは桐瀬さんを手招きします。

 いえ……今の桐瀬さんは『ブラッド=トキシン』さんでしたね。

 長いので『トキさん』としましょう。


「トキさん。ちょっと手を貸してください。こうして、はい。こうして。足は少し開いて……そうです。目線はこっちに。それで腕を上げて」

「イーザン」


 トキさんはうなずきます。

 ちなみに『イーザン』というのは異世界の言葉で『はい』だそうです。

『いいえ』は『ニーデル』という意味です。勉強になります。


 桐瀬さんは、わたしの使い魔という設定です。

 言葉を話さない方が使い魔らしいですけど、それだとコミュニケーションが取りにくいですからね。

 だから、異世界の言葉で話してもらうことにしたのでした。


「梨亜=蛍火=ノーザンライトと、その使い魔、ブラッド=トキシンこと、トキさん。悪の魔物たちを掃討しました!」

「……イーザン (はい)」


 わたしたちは杖と鉄パイプを並べて、ポーズを取ります。

 レーナのカメラワークは最高です。

 これで視聴者のみなさんも、トキさんのことを受け入れてくれて──



〈誰!?〉

〈ブラッド=トキシンって誰?〉

〈使い魔ってなに!?〉

〈なんで使い魔が鉄パイプを振り回してるの!?〉

〈かっこいい! がんばれー!〉



 ──ませんね。疑問の嵐です。


 ひとりだけ、わたしと同じセンスの方もいるようですけど。

 あ、いつも投げ銭ありがとうございます。


「ニーデル」

「え? ちゃんと説明した方がいい、ですか?」

「イーザン」

「わかりました。それでは皆さんに、わたしの使い魔を紹介します」


 わたしはトキさんの手を取ります。

 触れると、ごつごつしています。かぎ爪もついています。

 さすがは異世界の変身技術です。

 その手をかかげて、わたしはカメラに向かって声をあげます。


「この方は、わたしが異世界から召喚した使い魔、ブラッド=トキシン。魔界を破壊して、世界を人々の手に取り戻す切り札。最強の異世界生物です!!」


 わたしはトキさんの手を握って、そんなことを宣言したのでした。



──────────────────────


 次回、第11話は、今日の夕方くらいに更新します。



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