第15話「任務完了の報告をする」

『攻略配信』を終えた俺たちは、レーナ=アルティノと合流した。

 その後は車に乗って、魔界の入り口にある『配信者ギルド』の建物へ。


 そこで俺と蛍火は、魔界の攻略完了の報告をすることにしたのだった。




 はじめに、攻略に参加した者がそろっているかのチェックを受けた。

 魔界に人が残っていないことを確認するためだそうだ。


 犠牲者や重傷者が出た場合に、ギルド側が救援部隊を出すことになっている。

 治癒魔術や、医療機関への手配もギルドがやってくれる。

 そんなふうにして、『配信者ギルド』は人命を最優先しているそうだ。


梨亜リア蛍火ほたるび=ノーザンライトさまと、ブラッド=トキシンこと桐瀬柳也きりせりゅうやさま……はい、確認しました。おふたりとも、ご無事でなによりです」


 手元のディスプレイを見ながら、ギルドの女性は言った。


「『家電量販店』の攻略。お疲れさまでした。所要時間は……3時間25分ですか!? すごいです。Dランクの魔界の、攻略速度ランキング第2位ですよ!?」

「本当ですか!?」

「……それってすごいことなんですか?」


 ここはギルド内にある報告所だ。

 個室になっているから、まわりに他の人はいない。

 いるのは俺と蛍火、ギルドの職員──つまり、俺の正体を知っている人だけだ。

 だから仮面は外してもいいんだけど……帰り道のことがあるからな。

 今はブラッド=トキシンのままでいよう。


「はい。すごいことです。特にブラッド=トキシンさんは、初参加で記録を出されたのですからね!」


 ギルドの女性は目を輝かせて、


「トキシンさまはランク制と、魔界攻略のルールについてはご存じですか?」

「えっと、攻略できるのは、自分のランクよりも同じか、ひとつ下のランクの魔界なんですよね?」

「個人の場合はそうです。パーティの場合はリーダーのランクによって、攻略できる魔界のレベルが決まります。トキシンさまはCランクのノーザンライトさまが一緒でしたので、Dランクに挑戦できたわけです」

「……なるほど」

「Dランクの攻略が4時間を切るのは、本当に珍しいことなんです」


 ギルドの女性は興奮した様子で、


「どのように攻略されたのか、とても興味があります。あとで動画を見させていただきますね!」

「ありがとうございます」


 俺は軽く頭を下げて、


「ちなみに、1位は誰ですか?」

「東洋魔術師の八重垣織姫やえがきおりひめさまです。所要時間2時間52分です」

「3時間を切ってるんですか……」

「織姫さまの魔術結社『神那かんな』はすごいですよ。常に視聴者数が150万人を超えていますから」

「はい。わたしの……あこがれの人です」


 気づくと、蛍火が拳を握りしめていた。


「わたしは、あの人を超えるくらいの配信者になりたいと思っています」

「蛍火さん」

「はい。トキさん」

「魔界の攻略時間って、そんなに大事なんですか?」

「そうですね。素早く攻略するほど視聴者数が増えますから。無名の者が視聴者数を増やすには、攻略速度を上げるのがいい……これが、攻略配信をする者の常識でもあります」

「それは一例ですよ。ノーザンライトさま」


 ギルドの女性はたしなめるような口調で、


「『かっこいい攻略』『確実な攻略』『ふしぎな攻略』でも視聴者数は増えます。無理して速さにこだわる必要はありません」

「で、でも、速さを求める視聴者もいますよね?」

「それはそうですけど……」

「わたしたちは今回、Dランク2位の記録を更新しました。そうすると、それまで2位にランクしていた人や、その動画の視聴者さんたちが見に来るはずです。どうやって記録を更新したのかって」


 なるほど。

 魔界の攻略にスピードを求める者もいる。

 そういう人たちを引きつけるには、素早く魔界を攻略するのがいい、ってことか。

 考えることが多いんだな。『攻略配信』って。


「確かに、ノーザンライトさまの攻略動画は、ライブでの視聴者が前回より2千人増えています。ライブでこれですから、最終的に15万人は超えると思います。おめでとうございます」

「────え」


 蛍火が身を乗り出す。


「視聴者数が、15万を超えるのですか!?」

「固定客にできるかは次の動画の内容次第です。がんばってくださいね」


 ギルドの女性は、おだやかに微笑ほほえんだ。


 ……この女性、意外と策士さくしだ。


 蛍火に、Dランク攻略の最速ランキング2位になったことと、視聴者が増えたことを伝えて、やる気にさせる。

 その上で、『配信者ギルド』の職員として、無茶をしないように警告もしている。

 これで蛍火が、記録更新のために無茶をして怪我を負ったとしても、自己責任だ。


 さすがは異能者を束ねる『配信者ギルド』だ。人を乗せるやり方がうまい。

 だけど……こういうやり方は好きじゃない。


堅実けんじつにいきましょう。蛍火さん」


 俺はまっすぐに蛍火を見ながら、言った。


「急いで攻略しようとして怪我したり死んだりしたら、なんにもならないんですから」

「で、でも、リアルタイムの視聴者が2千人も増えたんですよ? Dランクの魔界の攻略速度2位でこれです。さらに上のランクの魔界で1位になったらもっと──」

「俺は、急いで成果を上げようとして、壊滅かいめつした部隊の生き残りと話をしたことがあります」

「……え」

「彼らは急いで敵地深くに侵入したところで、敵の奇襲きしゅうを受けました。生き残ったのは数人だけでした。彼らは手足を切り刻まれてから解放されたんです。見せしめのためだったと聞いています。彼らはって敵地から脱出して、なんとか味方の領域までたどりついたんです」

「そ、そんなことが……」

「無茶をするとそういうことになるんです。蛍火さんは、同じ目にいたいですか?」

「い、いえ……」

「だったら、堅実に行きましょう」

「は、はい。トキさんがおっしゃるなら」

「というわけですから、今後ともよろしくお願いします」


 俺はギルドの女性の方を見て、一礼した。

 彼女は、ぽかん、とした顔をしていた。

 でも、すぐにこわばった笑みを浮かべて、


「ええ。ノーザンライトさまとトキシンさまの働きには、これからも期待しておりますよ」

「ありがとうございます」

「ところで、トキシンさま」

「はい」

「あなたは戦場にいらしたことがあるのですか?」

「俺が異能者として登録したとき、身分証明書を提出しましたよね?」

「は、はい」

履歴書りれきしょも」

「そ、そうですね。拝見しました」

「俺の年齢は何歳になってましたか?」

「18歳です」

「その通りです。なのに、戦場に行ったことがあるわけないじゃないですか」

「でも、壊滅かいめつした部隊とお話になったと……」

「個人情報の観点から、黙秘もくひします」

「……黙秘」


 そんな話をしていると、奥から魔術師の男性が出てくる。

 ギルドの職員たちだ。

 俺たちが提出した『魔界化コア』のチェックを行っていたらしい。


 彼らによって『魔界化コア』は、間違いなく本物だと確認された。

 俺たちは返還されたコアを受け取り、かばんに入れた。


 これからギルドの職員たちは『家電量販店』に入り、魔界化が解除されたかどうかのチェックを行う。クリーンな状態だと確認されたら、元々の所有者に建物が引き渡される。

 その後、所有者は土地や建物を処分するか、再利用するか決めるそうだ。


「皆さんの最終目的は、この間際市から魔界を消し去ることです」


 ギルドの女性は、最後に、そんなことを言った。

 事務的な口調だった。


「魔界が消えれば、多くの土地や建物を再利用できるようになります。町も活性化するでしょう。その利益は計り知れません。間際市から魔界を消し去るまで、がんばってください」

「はい。ありがとうございます」

「了解です」


 俺と蛍火は『配信者ギルド』を後にした。

 ギルドの駐車場では、レーナ=アルティノが待っていた。


 それから俺たちは、彼女の運転する車に乗り、帰ることにしたのだった。



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 次回、第16話は、明日のお昼くらいに更新する予定です。


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