第6話「仕事の内容を聞く」

 それから蛍火は、魔界の『攻略配信』について、詳しく教えてくれた。


『攻略配信』とは、魔界化した建物を攻略する作業のことだ。

 魔界にある建物の多くはダンジョン化している。その奥には魔界化コアというものがあり、それを回収すると、建物を元の状態に戻せる。

 魔界化は解除されて、土地や建物を利用できるようになるそうだ。


 もちろん、勝手にやるわけじゃない。許可が必要だ。

 蛍火の話によると、魔界と異能を管理する『異能監督省いのうかんとくしょう』というものがあって、蛍火のような異能者はそこに登録しているそうだ。


 ちなみに、登録して魔界の攻略を行う異能者は『登録異能者』と呼ばれている。

 異能者というのは略称らしい。


『攻略配信』は異能監督省の下部組織『配信者ギルド』が管理している。

 ギルドは魔術師同士がケンカをしないように、誰がどこの魔界を攻略するのか、スケジュール管理をしている。

 配信用の魔術を開発したのも『配信者ギルド』だ。

 名前は軽い感じだけど、高位の魔術師が集まる、すごい組織だそうだ。


 魔界攻略の様子は、『配信者ギルド』が運営する動画サービスで配信される。


 ──魔界の内部が、今どうなっているのか。

 ──どんな魔物がいて、どのように駆除くじょされているのか。

 ──人間がどれくらい、元の世界を取り戻したのか。


 すべてをオープンにして、人々の理解を得るのが『攻略配信』の目的だそうだ。


 ぶっちゃけると、怪しい場所で知らない連中が異能バトルしてたら気になるから、ご近所トラブルを起こさないように、ちゃんと説明する──ということだろう。


 どのみち現代では、隠れて異能バトルをするなんて不可能だからな。

 変にかんぐられたりするよりは、オープンにした方がいいんだろう。


「魔界攻略を配信するのは、人の視線を集めるためでもあります。たくさんの人の視線には、魔術的な力がありますから」


『人の住まない家は荒れる』という言葉がある。

 文字通りの意味だ。誰も住まなくなった家は、急速に荒廃こうはいしていく。

 それは人が手入れしなくなったからでもあるのだけど、異能者は違う考え方をしているそうだ。


 住人がいる家が荒れないのは、住人や周囲の人間が「ここは家である」と認識しているから。

 人々の認識や視線が、柱や壁の集合体を『家』にしている。

 それを異能者たちは『視線の魔術』と呼んでいるそうだ。


 異能者たちは魔界の攻略に、その魔術を応用している。

 魔界は人の住まない場所だけれど、もともとは、人が住んでいた場所でもある。

『家電量販店』や『ショッピングモール』などだけど、外観は、ぎりぎり原形をとどめている。


 だから魔術師は「これから『家電量販店』を攻略して元の世界に戻します!」と宣言して、その様子を配信する。たくさんの視聴者に「ここは『家電量販店』」だと認識してもらう。

 日常と繋がっている人々の、視線を集める。

 すると、多くの人に『見られた』魔界は、日常へと引っ張られる。

 人が活動できる場所になり、魔術師の活動時間も長くなるそうだ。


「配信をしているのは、そういう理由だったんですね」

「そうです。だからいつも『応援やチャンネル登録をお願いします』と言ってるんですよ。見てくれる人が増えれば、視線の魔術も強くなりますからね」


 なるほど。

 奥が深いな。『攻略配信』って。


 ちなみに異能者は、次のものから報酬ほうしゅうを得るそうだ。


・倒した魔物の素材回収。

・魔界のコアの素材回収。

・魔界化の解除による報酬 (これは土地の権利者や、市からもらう)。

・視聴者数による広告収入。

・配信に関わるグッズの販売収益。


 ──以上だ。


 配信者にはランクがあって、それが高いほど難しい魔界に挑戦できるようになる。

 ランクはAからE。Aが最強で、Eが最弱。

 その上に特別ランクとして、Sランクがある。


 蛍火はCランク。

 中堅どころの異能者で、上位ランクを目指して魔界の攻略を続けている。

 彼女は俺にそのサポートをしてほしい、ということだった。


 提示された報酬は、全体報酬の15%。

 その他に、福利厚生もついてくる、という話だ。


「わたしが所属する魔術結社の名前を『ポラリス』と言います」


 蛍火さんは言った。


「その代表取締役は、わたしの幼なじみです。信用できる人で、すごく、優しい人でもあります。わたしと桐瀬さんが一緒に『攻略配信』することに、きっと賛成してくれるでしょう」


 そうして彼女は、責任者に連絡を入れたのだった。






 そして、十数分後にやってきた魔術結社の責任者は──


「駄目に決まっているでしょう!? お嬢さま。なにを考えていらっしゃるんですか!?」


 あっさりと、蛍火の提案を却下したのだった。



──────────────────────


 次回、第7話は、今日の夜くらいに更新する予定です。



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