第46話「事件を解決する」

「……結構、大変だったな」


 異能者の仕事って、魔物を倒して『魔界化コア』を回収するだけじゃないんだな。

 大変な仕事だ。


 でも、充実してる。

 自分で仕事のやり方を選べるし、福利厚生ふくりこうせいもしっかりしてる。

 なにより、信頼できる仲間がいる。

 蛍火ほたるびの魔術や、アルティノのサポート、八重垣織姫やえがきおりひめの使い魔の協力がなければ、みのり先輩たちを助けることはできなかったんだから。


 やっぱり……この仕事は、俺に向いてるのかもしれない。

 それに『特異点』のことも気になる。

 魔術師アポロスカ以外の『特異点』には、異世界転移のことを知ってる人もいるかもしれない。

 もしかしたら、異世界エルサゥアに渡る方法を知っている者も。


 俺はもう一度エルサゥアに行って、あの世界の未来を見てみたい。


 この世界の1日は、異世界エルサゥアの1年にあたる。

 俺がもう一度あの世界に転移するころには、とてつもない時間が経っているはず。

 世界も落ち着いて、人間と邪竜族じゃりゅうぞくの戦いなんか、過去の歴史になっているかもしれない。

 そこで俺は、自分がしたことの結果を見てみたいんだ。


 戦争の手伝いをしたことに意味があったのか。

 それとも、長い時間が経って、すべてがうやむやになっているのか。

 なんでもいいから、結果を知りたい。


 そうすれば異世界召喚されたことにも、納得できるようになるかもしれない。

 今は、そんな気がしているんだ。


「トキさーん! 大丈夫ですか!!」

「ブラッド=トキシンさーん!!」


 そんなことを考えていたら、蛍火と八重垣織姫がこっちに来るのが見えた。

 俺の足元には、十数体の『付喪神つくもがみくまさん』たち。

 怪我人はなし。犠牲者もなしだ。よかった。


「ご無事ですね!? トキさん。怪我はしていませんね!?」

「……マスター?」



 さわさわ、さわ。



 ローブの上から、彼の胸に手をわせてくる蛍火。

 あ、泣きそうな顔をしてる。


 いや、俺は無茶をしたわけじゃないんだけど。

『巨大ゴーレム』の退治は『付喪神つくもがみくまさん』に任せてたし、ゴーレムの首を落としたのは蛍火の魔術だったし。

 俺はただ、最後のとどめを刺しただけなんだけど。


「トキさんのことだから大丈夫だとは思っていましたけど……わたし、心配で……」


 蛍火は俺の肩に手を置いて、うつむいた。


「怪我、してないですよね。なんともないですよね!?」

「イーザン」

「……よ、よかったぁ」


 俺の服をつかんだまま、蛍火は長いため息をついた。

 本当に心配してくれてたみたいだ。


「帰ったら会議をしましょう。わたし、提案があります」

「提案?」

「次回から『攻略配信』のチャンネル名を『ブラッド=トキシンと梨亜=蛍火=ノーザンライト』にしましょう!」


 蛍火は宣言した。

 高らかに手を掲げて、迷いなんてなにもない表情で、きっぱりと。


 ……って、なに言ってんだこの人は!?


「マスター、それは、よくない」

「もう決めました!」

「勝手に、決めるのは、だめ」


 アルティノさん、聞こえてますよね? なんとか言ってください。

 ……え、なんでだまってるんですか?

 なんだか考え込んでるような声がするんだけど?

 魔術具の向こうでなにが起こってるの?


 ……コメントの嵐? なんの?

 いや、俺の方だと動画は見られないんだけど。

 なにが起こってるのか教えてください。黙ってないで。


「無事でよかったよ……トキシンさん」


 ふと気づくと、八重垣織姫が俺に向かって、深々と頭を下げていた。


「それと……ありがとう。六曜ろくよう七柄ななつかを助けてくれて」

「いえいえ」

「今回の事件については、色々と調べる必要があるね。魔界に入ってからの六曜の様子は、明らかにおかしかった。ううん、それは、屋敷を出る前からかも……」

「織姫、さま?」

「なんでもないよ。とにかく、さばくべきは裁いて……それから、やるべきことをやるだけだね!」


 それから、八重垣織姫は俺の手を取って、


「また会えるかな。トキシンさん」

「はい。もちろん」

「ありがとう。それじゃ、会いに行くね・・・・・

「はい。もちろ……」


 ……ん?

 なんだか、セリフに違和感があったんだけど。


 まぁいいか。考えるのは後だ。俺も結構疲れてる。

 それに、道路の向こうから、『配信者ギルド』の後続部隊がやってきてる。

『魔界化コア』の回収に来た人たちだ。


 魔術師アポロスカは倒したけど、ショッピングモールの『魔界化コア』は残ってる。魔物はほとんど駆逐くちくしたから、回収は楽だと思うんだけど。



『「魔界化コア」の所有権を、八重垣家やえがきけ放棄ほうきしました』



 魔術具からアルティノの声が聞こえた。


『今回の事件について、八重垣家はすでに調査を行ったようです。その結果、「魔界化コア」の所有権を放棄した方が得策だと考えたのでしょう。「魔界化コア」はわたくしたち「ポラリス」のものになります』


 もっとも、回収するのは後続部隊ですから、価格の1割を持って行かれますけどね──と、アルティノは付け加えた。


 ……八重垣家が『異界化コア』の所有権を放棄したのか。

 六曜と七柄を助けた報酬ってことかな。

 それとも、他になにか理由があるんだろうか。


 まぁ、それは俺が考えることじゃないな。

 今日の仕事は終わりだ。

 それに、なんといっても明日は日曜日。予定もなにもないお休みだ。

『攻略配信』のおかげで生活に余裕ができたから、バイトのシフトも入れていない。

 明日はゆっくり、休日を堪能たんのうしよう。


 ……本当に久しぶりだ。なんにも予定がない日曜日って。

 仕事を選べるっていいな。本当に。


「それでは、マスター。帰還を」

「はい。帰りましょう。トキさん!」

「お疲れさまでした。ブラッド=トキシンさま。蛍火さま」


 そうして俺たちは、アルティノとの合流地点に向かい──

 ギルドへの報告と後始末を終えてから、『ポラリス』の本部へ帰ったのだった。

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