第22話「先輩に推される(2)」
──みのり先輩視点──
「後輩くんには、トキさんのかっこよさがわからないのかな」
みのりがブラッド=トキシンに感じたのは、他の配信者との違いだった。
ブラッド=トキシンは、
『攻略配信』に参加する異能者たちは、みのりたちとは別の存在だ。
彼らは術者の家系に生まれた者だったり、幼いころから訓練を受けた者だったりする。みのりたちとは生まれも育ちも違う。
けれど、ブラッド=トキシンはそうじゃなかった。
みのりには彼が『強い生物が、うっかり魔界に迷い込んで、とまどっている』ように見えたのだ。
彼の姿は異形だ。謎の仮面に黒いローブ。頭には角がついていて、背中にはコウモリのような羽が生えている。
それでもみのりには、ブラッド=トキシンが自分たちに近い存在に思えた。
そもそも武器が鉄パイプだ。
異能者のような解説も
戦い方はひたすら、魔物たちをぶっ叩くだけ。
口にする言葉は『イーザン』『ニーデル』のふたつだけ。
なのに強い。
鉄パイプで『ゴーレム』を吹っ飛ばし、『グレムリン』の頭を叩き潰す。
不器用な戦い方で、魔物たちを圧倒している。
それは他の異能者にはないものだ。
「トキさんは、他の異能者たちとは
みのりたちは、魔界に入れない。
ときどき魔界に引きずり込まれる者はいるけれど、自分の意思で入るのは無理だ。
魔界の入り口は異能者によって厳しく管理されている。
一般人は通れないし、そもそも魔界の中で生き残る手段もない。
すぐそこにあるのに、関われない。
そんなみのりにとってブラッド=トキシンは、一般人の代表のように見えたのだ。
「私だけじゃないもんね。掲示板ではみんなが、トキさんを応援してる」
みのりは慣れた手つきで、ネットの掲示板にアクセスする。
そこには
「これを後輩くんに見せるのは、彼がトキさんの魅力に気づいてからかな?」
みのりは『間際市の「魔界攻略」について語るスレ』を読み始めた。
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300 世界の崩壊を案じるネームレス
302 世界の崩壊を案じるネームレス
あの市はエース級の異能者が多すぎじゃね?
303 世界の崩壊を案じるネームレス
エース級って誰よ。
304 世界の崩壊を案じるネームレス
ランクBの
305 世界の崩壊を案じるネームレス
わんこの使い魔がかわいいやつ。
306 世界の崩壊を案じるネームレス
いや、本人の方がかわいいだろ。戦う巫女さんだぞ。
307 世界の崩壊を案じるネームレス
彼女はサポートメンバーが強すぎる件。
308 世界の崩壊を案じるネームレス
ランクCのダンディさんは?
309 世界の崩壊を案じるネームレス
『背広姿の攻略者』か。接近戦では最強じゃね?
310 世界の崩壊を案じるネームレス
女性人気が高いだけかと。
311 世界の崩壊を案じるネームレス
シングルファーザーの異能者を応援しないでどうするよ。
男手ひとつで双子を育ててるんだぞ。
312 世界の崩壊を案じるネームレス
まじか。
313 世界の崩壊を案じるネームレス
まじか。
314 世界の崩壊を案じるネームレス
同じくCランクの『正義の魔術姫』は?
315 世界の崩壊を案じるネームレス
普通で面白みがないよな。安定して攻略してるんだけどなー。
316 世界の崩壊を案じるネームレス
いや、魔術姫はおかしな使い魔を使役しはじめてるんだが?
317 世界の崩壊を案じるネームレス
使い魔?
318 世界の崩壊を案じるネームレス
鉄パイプで『グレムリン』と『ゴーレム』をぶちのめして、ナイフで『ワーム』の動きを止めてた。なにあれ。
319 世界の崩壊を案じるネームレス
男か女か?
320 世界の崩壊を案じるネームレス
不明。角の生えた仮面と、ローブを被ってる。
321 世界の崩壊を案じるネームレス
322 世界の崩壊を案じるネームレス
中二病にしてもガチで強い。
魔術姫と組んで、Dランク魔界攻略のタイムアタック2位。全国で。
323 世界の崩壊を案じるネームレス
まじか!? 見てみるわ。
324 世界の崩壊を案じるネームレス
ちなみに、使い魔の名前はブラッド=トキシン。愛称はトキさん。
325 世界の崩壊を案じるネームレス
なにそれ。中二病かわいい。
326 世界の崩壊を案じるネームレス
トキさん注目。
327 世界の崩壊を案じるネームレス
トキさんの情報求む。
328 世界の崩壊を案じるネームレス
別スレ立てた。
329 世界の崩壊を案じるネームレス
……というか、早く正体をあばいてくれ。
329 世界の崩壊を案じるネームレス
あー。気の毒に。
330 世界の崩壊を案じるネームレス
強く生きろ。
331 世界の崩壊を案じるネームレス
その姉がここを見ている可能性は?
332 世界の崩壊を案じるネームレス
あ……やば。
332 世界の崩壊を案じるネームレス
がんばれ。
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「……うん。弟くんには、あとでお説教だね」
みのりはスマホの画面を閉じた。
「でも、まずは桐瀬くんに、トキさんのすごさをわかってもらうのが先かな。トキさんを推す人間は多い方がいいよね? あたしがバイトの後輩に布教したって言えば、トキさんもよろこんでくれるよね!」
そんなことを思いながら、みのりは仕事に戻るのだった。
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次回、第23話は、明日の夕方くらいに更新する予定です。
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