異世界帰りの俺が、美少女異能配信者の使い魔になった件 -異能バトルと魔界攻略、配信します-

千月さかき

プロローグ

 ──プロローグ──





 目の前には、青白く光る町がある。


 ここが人間の領域だったのはずっと昔のこと。

 今は人の住めない別世界だ。

 まぁ、それを人間の手に取り戻すのが、俺たちの仕事なんだけど。


 俺たちがいるのは、魔界。

 10年前の『魔術災害』で、別世界に変わってしまった町だ。

 道にも、建物にも、魔界の魔力がこびりついて、青白い光を放ってる。

 道路には魔物がうろついて、建物の中なんて、ダンジョン化してるところもある。


 世界中のあちこちに、こんな魔界が存在している。

 俺が住んでいる、この町にも。


 ここも昔は大勢の人が暮らしていたオフィス街だった。

 今はもう誰もいない。ビルの窓はすべて真っ暗だ。

 電車は錆びた鉄橋の上で、10年間ずっと止まったまま。

 放置された自動車は窓もライトも砕けて、塗装がげかけてる。


 道路の先にある巨大な建物は、県庁舎けんちょうしゃ

 そこには、なんか蛇かドラゴンのような魔物が絡みついている。


 ここは化け物のうごめく魔界となって、人の存在を拒絶している。

 魔界を元に戻す力を持った俺たち──異能者いのうしゃを除いて。


「見てくださいトキさん! わたしたちの動画の、同時接続者数がもうすぐ2万人を超えます!」

「マスター。今、それどころじゃない」

「で、でもでも! わたしが一人で配信していたときとは桁違いです。トキさんが加入してから、視聴者数がすごいことに……」


 相棒あいぼう蛍火ほたるびは、スマホを手に感動してる。

 映っているのは俺と蛍火の後ろ姿だ。

 この動画はリアルタイムの俺たちを映し出してる。


 俺たちの背後には、魔物の残骸ざんがいが転がってる。

 黒焦くろこげになってるのは蛍火の魔術で焼かれた奴。

 全身がつぶれてるのは、俺が鈍器どんきでぶん殴った奴だ。


 ……なんだかなぁ。

 この仕事をはじめて大分だいぶ経つけど、いまだに慣れない。


 俺が異形の化け物たちと、異能バトルをやることになるなんて……しかも、それが動画として配信されるなんて、蛍火と出会うまでは想像もしてなかった。

 しかも、俺が配信のトップランカーになるなんて、思いもしなかったんだ。


「決戦前です。名乗りを上げましょう。トキさん!」

「どうしても?」

「お約束ですから!」


 異能バトルって、世界の裏側でこっそり行われるものだと思ってたんだけどな。

 神秘を隠した戦いができなくなったからって、ネット配信することないと思う。

 まぁ、その収益をもらってる身としては、文句は言えないんだけど。


「我が名は『正義の魔術姫ジャスティス=マジックプリンセス梨亜リア蛍火ほたるび=ノーザンライト!! そして!」


 蛍火が高らかに声を上げる

 俺は念のため、顔を隠す仮面が外れていないか確認してから、


「梨亜=蛍火=ノーザンライトの使い魔『ブラッド=トキシン』」

「あっさりすぎます!」

「……勘弁かんべんして。マスター」


 俺たちが名乗りを上げると、動画のコメント数が激増する。

 耳につけた通信用のマジックアイテムが、コメントを声にして再生してくれる。



〈リアタイ1万人突破おめ!〉

〈りあちゃんがんばれー〉

〈応援してます。ブラッド=トキシンさま!〉

〈トキシンさまふぁいとー〉

〈トキさんがんばー!〉

〈がんばれ! 中二病ちゅうにびょう配信者トキさん!!〉

〈トキさんだトキさんだトキさんだ──っ!〉



 チャンネル名は『正義の魔術姫 梨亜リア蛍火ほたるび=ノーザンライト』なんだけど。

 なんで俺てのコメントの方が多いんだ。

 どうしてこうなった……。


『他の異能者たちは、まだ敵陣を突破できていません』


 イヤホンから声が届く。

 俺と蛍火のサポート役、レーナ=アルティノの声だ。


もっともも先行しているのは、東洋魔術師のパーティです。到着まで20分弱かかります。もう少し、ここで敵を食い止めてください。それと──』

「はい?」

「なんですか。レーナ」

『さっき名乗りを上げてくださいましたが、決めポーズを取っていらっしゃいませんね?』

「…………えー」

「そうでした! ごめんなさい。レーナ!」

『決めポーズがあるとないとでは、グッズの売り上げが20パーセントも変わってくるのです。特にお嬢さまの杖のレプリカと、トキさまの仮面とローブのレプリカは、我が魔術結社まじゅつけっしゃ『ポラリス』の重要な収入源なのです。画面映えするように、しっかりとポーズを取っていただかなくては!』

「………………そうなんですか」

「やりましょう。トキさん!」


 ……仕方ないか。

 俺たちは仕事で、魔界の攻略をやってるわけだし。

 生活がかかってるんだ。真剣にやろう。


「我ら異能者は、人の世に安寧あんねいをもたらすもの!」


 蛍火が空に向かって、杖を掲げる。

 俺は彼女の杖に、自分の武器をクロスさせる。

 以前に、そこらへんで拾って強化した、最強の鉄パイプを。


 そうして、ふたりで名乗りを──



『あ、駄目です。トキさま。腕の角度が浅すぎます!』



 ──あげようとしたところで、駄目出しをくらった。


『右腕をあと15度上に。それと、左脚を12度開いてください』

「なんでそんな細かい指示を!?」

『魔術結社「ポラリス」では、現在「1/8はちぶんのいち、梨亜=蛍火=ノーザンライト&ブラッド=トキシンフィギュア」を制作中なのです。それと同じポーズを取ってください』

「フィギュア化!? 聞いてませんけど!?」

『契約書には「グッズ販売の優先権はポラリスにある」と書いてあります』

「こんな短期間で自分がフィギュア化されるなんて思いませんってば」

『視聴者にされる者としての自覚を持ってくださいませ! 桐瀬柳也きりせりゅうやさま!』


 いや、なんでそっちが怒ってるんですか。レーナさん。

 あと、仕事中に俺の本名を呼ばないでください。

 通信内容は視聴者に聞こえないけど、名前を呼ばれると落ち着かないから。


『失礼しました。トキさま』


 こほん、と、咳払せきばらいするレーナ=アルティノ。


『と、とにかく、すでにフィギュアの注文が殺到しているのです。この商機しょうきを逃すわけにはまいりません。販促のためにも、ポーズを取ってくださいませ!』

「注文が殺到してるんですか……」

『このペースなら増産ぞうさんもありえます!』

「まぁ、蛍火さんのフィギュアが人気なのはわかりますけど」

『いいえ。注文数はお嬢さまとブラッド=トキシンさまで、3対7の割合です』

「なんで俺の方が多いんですか!?」

『お嬢さまのリクエストで、ブラッド=トキシンさまのフィギュアにローブ脱着キャストオフ機能をつけたのがよかったようです』

「待って。なんでそんなことに?」


 いや……どうして目をらすんですか。蛍火さんマスター

 なんで俺のフィギュアにキャストオフ機能を付けるんですか。

 というか、本気でそんなもの発注したんですか。商売になるんですか。それで。


「……でも、発注しちゃったならしょうがないですね」

「だ、大丈夫です。わたしの分のトキさんフィギュアは、確保してもらってますから!」

「そういう心配はしてないです」

「フィギュアの売れ行きによっては、わたしとトキさんが『コンビニで一番売れているくじ』のグッズになるかもしれないんですよ!!」

「『コンビニで一番売れているくじ』のグッズに!?」

「わたし、お財布持ってコンビニを回ります! トキさんグッズをコンプリートしてみせます!」

「まぁ、俺も蛍火さんのグッズは欲しいですけど」

「……うれしいです」


 頬を染めてうつむく蛍火。

 こういうところは変わってない。

 プライベートの梨亜=蛍火=ノーザンライトは、照れ屋のままだ。


 とにかく、フィギュア化は受け入れよう。これも仕事だ。

 グッズが売れれば、魔術結社『ポラリス』の収益しゅうえきが上がる。

『ポラリス』の収益が上がれば、俺の報酬が増えて、生活が楽になる。

 人生の選択肢せんたくしも増えるはずだ。


 なにも選べなかった俺の人生に、選択肢を増やす。

 そのために俺は蛍火と一緒に『攻略配信こうりゃくはいしん』をしてるんだからな。


「それじゃ、ポーズを取りましょうか。マスター」

「はい。トキさん!」


 俺たちは再び、鉄パイプと杖をクロスさせる。

 さっきより右腕を15度上に、左脚を12度開いてっと。

 こんなものかな。


「いざゆかん! 戦いへ!」

「魔物を倒し、魔界を消し去らん!」


 そうして俺と蛍火は声をあげる。


「異能の力は、平和の、ために」

「世界の闇は、正義の魔術が打ち払う!」

「害を為す魔物は、暗黒の使い魔が、たたきき、潰す」

「「われら、魔術結社『ポラリス』!!」」


 蛍火の杖と俺の鉄パイプが、輝きを放つ。

 いや……蛍火の『灯り』の魔術で光らせてるだけなんだけど、これをやらないわけにはいかないらしい。

 動画のチャンネルのアイコンが『クロスして輝く杖と鉄パイプ』になっちゃってるから。

 どうしてそうなったのか……。


「西洋魔術師、梨亜=蛍火=ノーザンライト!」

「その使い魔……ブラッド=トキシン」



「「魔界を消滅させるため、異形の魔物を退治します!!」」



 県庁方面からやってくるのは、大型の魔物たち。

 前衛には獣型の魔物。その後方にいるのは、身長数メートルの巨人だ。


 蛍火は大型の『火炎弾』を飛ばして、敵の前衛に叩き込む。

 敵がひるんだ隙に、俺はそのまま突撃。魔術強化した鉄パイプで、巨人をぶん殴る。


『グガァッ!?』『ギィィアアア!?』『ゴガァァアアア!?』


〈やっちゃえ! トキさん!!〉

〈魔物が紙人形みたいに飛んでいく!?〉

〈やっぱり一日一回は、トキさんの魔物吹っ飛ばしを見ないと!〉

〈トキさん無双むそう、おいしいです!〉

〈りあちゃんもときさんもがんばれー!!〉


 俺と蛍火のもとにコメントが届く。

 応援の声を聞きながら、俺は武器を手に、異形の化け物へと立ち向かって行くのだった。



 これは働きたくない俺が、相棒とトップクラスの配信者に成り上がっていく物語。

 はじまりは半年前。

 俺がまだ高校生で、必死にバイトしながら生活していたときのこと。



 バイト中の俺は、異能者いのうしゃの梨亜=蛍火=ノーザンライトと出会ったのだった。



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 次のお話は、今日の夕方くらいに更新する予定です。

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