第27話「買い物の計画を立てる(2)」

 ──梨亜リア視点──



桐瀬きりせさんがOKしてくれました。週末はふたりでおでかけしてきます」

「お嬢さま」

「なぁに。レーナ」

「メッセージをやりとりをする前に、服くらいは着てください」

「着てるけど?」

「下着は服とは言いません」

「よく聞いて。レーナ」

「なんでしょうか?」

「わたしは四大元素魔術師です。地水火風ちすいかふうすべての元素を感じ取り、魔術として表現する者です」

「はいはい。だから水や風を直接肌で感じる必要があるのですね?」

「わかってるじゃない」

「さんざん聞かされてきましたからね。小さいころ、お風呂上がりの梨亜さまに下着を着せるのが、わたくしの役目だったのをお忘れですか」

「一緒にお風呂に入っていたころの話ね?」

「そうです」

「その話を持ち出すということは、一緒にお風呂に入りたいの?」

「入りません。というか、梨亜さまはお風呂から出たばかりでしょう」

「2回お風呂に入ってもばちは当たらないと思うの。それに、お風呂に入ると火──熱と、水を直接肌で」

「もういいですから。とにかく、寝間着を着てください」

「はーい」


 ソファに寝そべっていた梨亜は、床に落ちていた寝間着を引っ張り上げる。

 芋虫いもむしのようにごそごそと、寝間着に身体を通していく。


「これでいいでしょ?」

「スマホを手にするまえに着てください」

「あら。お祖母さまもこんな感じだったのよ?」

「そういえば……そういうお方でしたね」

「四大元素の精霊に愛されるには、飾らない自分でいなければいけないとお祖母さまは言っていました。子どものころは、服を着るのを忘れることもあったそうです」

「のどかな時代だったのですね……」

「お祖父さまにプロポーズしたときは、ありのままの自分をさらけだしたと言っていました」

「そのお話はわたくしも聞いております。たぶん、お嬢さまよりも詳しく」

「教えて。レーナ」

「お嬢さまが真似するといけないので駄目です。それより、お嬢さま」

「なぁに?」

「桐瀬さまと買い物にいく理由は、わかっていますね?」

「パートナーとして、おたがいをよく知るためよね?」

「いえ、『ポラリス』の福利厚生が手厚いことをお伝えして、長期契約をしていただくためですが」

「え?」

「え?」

「…………」

「……お嬢さま。わたくしの話を聞いてませんでしたね!?」

「ち、違うの! 聞いていなかったわけじゃないの!」


 パジャマ姿で、ぶんぶん、とかぶりを振る梨亜。


「ちゃんと聞いていたのよ? 聞いていたのだけど……」

「聞いていたのに、どうしてそんな結論になるのですか!」

「桐瀬さんのことが、気になったから……かな」


 梨亜はソファに置いてあったぬいぐるみを抱きしめて、そんなことを言った。


「桐瀬さんは……7年間、異世界で生活していたのよね?」

「そうですね。それは間違いないと思います」


 レーナはうなずいた。


「あの方がお持ちのローブと仮面は、わたくしたちに理解できない技術で作られております。それに、桐瀬さまの『属性付与』は桁違けたちがいの能力です。本来なら錬金術師れんきんじゅつしが工房で行うようなことを、あの方はその場で実現しております。ですから、異世界のお話にも納得するしかありません」

「うん……そうよね」

「そのような能力を見れば、お嬢さまが気になるのは当然でしょう」

「そうなんだけど……そうじゃないの」

「と、おっしゃいますと?」

「よくわかんない」


 梨亜はぬいぐるみを抱いたまま、ごろん、と、ソファに横になった。


「よくわかんないけど、わたしは桐瀬さんのことを知りたいと思ったの。だから、福利厚生が手厚いことを伝えるとか、そういうことは忘れてしまったの。それだけ」

「……お嬢さま。それは……」

「レーナ?」

「いえ、なんでもありません」


 ごまかすように咳払せきばらいするレーナ。


「言い忘れておりましたが、土曜日の買い物は『ポラリス』の業務となります。ですから、お嬢さまにはわたくしが選んだ服を着ていただきます」

「え? そうなの?」

「ちなみにお嬢さまは、どんな服を着て行くおつもりでしたか?」

「午前中に学校に行く用事があるから、そのまま制服で」

「いけません」

「そう? じゃあ、動きやすいジャージで」

「論外です!」

「そこまで言うこと!?」

「服は、わたくしが準備いたします。それと」

「なに?」

「きちんとお買い物できるように、わたくしがかげながらサポートいたします」

「桐瀬さんに必要なものを買うだけよ?」

「これは業務です」

「業務なんだ?」

「『ポラリス』の代表取締役は、わたくしレーナ=アルティノです。業務である以上、わたくしの指示に従っていただきます」

「はぁい」

「お嬢さま」

「なぁに? レーナ」

「わたくしは、事は慎重に進めるべきかと存じます」

「買い物のことだよね?」

「自覚がないのはわかりました」

「なんの話?」

「こちらの話です。とにかく、わたくしがサポートいたしますので、従ってくださいませ」


 こうして梨亜は、レーナの指示のもと、買い出しの準備をはじめることになったのだった。



──────────────────────


 次回、第28話は、今日の夕方くらいに更新する予定です。



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