禁忌
「紗杜子、もう認めるよね?」
「何をですか……?」
「地獄丸の正体が紗杜子であることを」
紗杜子は、采奈から直接聞くことによって、僕が采奈に告白し、フラれた、という事実を知っていたことを認めた。
それは、自分が地獄丸であることを認めたに等しい。
ゆえに、僕はもう、紗杜子が観念したのだと思った。
――しかし、違った。
「道人君、さっき言ったとおり、私は地獄丸ではありません!」
紗杜子は、頑なにその一点を否定するのである。
僕にはそのことが不思議で仕方がなかった。
「紗杜子、どうして嘘を吐くの?」
「嘘なんか吐いてません。私は、今まで道人君に対して嘘を吐いたことなんて、一度もありませんから!」
たしかに、紗杜子は、バカが付くほどの正直者である。
僕が知っている紗杜子は、嘘を吐けば簡単に済むような場面でも、素直に、愚直に、本当のことだけを話し続けていた。
紗杜子は決して嘘を吐けない性格なのだろう、ということは、僕自身思っていたことである。
しかし、今回の地獄丸の件は違う。
地獄丸の正体は、紗杜子でしかあり得ないのだ。
紗杜子は、明白に嘘を吐いているのである。
「……紗杜子がどうしてもシラを切る、というなら、僕にも考えがあるよ」
僕は、メロンソーダのカップに差さずにいたストローをグニュグニュ曲げながら、声を落とす。
そのことは、できれば言いたくなかった。
墓場まで持って行きたい、とそう思っていた。
しかし、紗杜子がそのような態度をとるのであれば、致し方ない。
僕は、ついに禁忌に触れる。
「紗杜子、君には地獄丸になって、暴露配信を行う動機があるんだ」
「動機? 一体何ですか?」
「それは、
地獄丸の暴露配信のうち、采奈を殺した犯人は僕である、という部分は完全な出鱈目である。
僕は、なぜ地獄丸がそんな事実無根の告発を行ったのか、不思議で仕方なかった。
しかし、地獄丸の正体が紗杜子だとすると、そのことにも一応の説明がつくのである。
紗杜子には、
それは――
「
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