待ち合わせ

 待ち合わせ場所は、チェーンのハンバーガーショップにした。低価格が売りで、常に老若男女が賑わう人気店である。


 僕は、待ち合わせ時間より少し早めに着き、場所取りのために、二階のイートインスペースに向かう。


 丸机を挟んで二人掛けの席が、一つだけ空いていたので、そこに陣取る。



 待ち合わせの相手とこれからする話を考えれば、たとえば、昨日いたような、誰もいない公園などの方が良かったかもしれない。


 これからする話は、誰にも聞かれたくない性質のものなのだ。



 他方で、逆の配慮も働く。


 待ち合わせの相手は、である。


 互いに感情的にならないためにも、衆人環視の下の方が良いのである。


 これくらい賑わっていて、これくらい騒がしいハンバーガーショップならば、きっと会話も聞かれずに済む。



 僕は、丸机の上に突っ伏す。


 そして、目をつぶる。



 昨夜の地獄丸の配信は、衝撃的なものだった。


 地獄丸は、真実を言い当てていたのである。



 それは、地獄丸から僕に対する鋭い攻撃である。


 他方で、それは、地獄丸にとって捨て身のようなものだった。


 なぜなら、そこまで事実を知っている人間は限られているからである。


 

 昨日の地獄丸の発言を聞いて、少なくとも僕は、地獄丸の正体を特定できた。



 



 そして、その人物が地獄丸だとすると、Vtuberとして配信を行い、采奈殺しの犯人が僕だとでっち上げる動機が、一応存在しているのである。



 それは僕にとってはあまり理解できない動機ではある。狂っている、とさえ思う。



 しかし、そういう動機があり得るということは、ギリギリ僕の想像の及ぶところなのである。



 ガヤガヤという環境音。


 そこを切り裂くように、待ち合わせ相手の声が聞こえて、僕は、顔を上げる。



 その人物は――

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