惨め
夜の河川敷に、僕と采奈だけがいる空間。
今の僕には、その空間がどうしても耐えられなかった。
「采奈、今までありがとう。バイバイ」
僕が踵を返そうとすると、「待ってくれ」と采奈が引き止める。
「……別にもう話すことはないだろ? 僕は、采奈の気持ちは理解したよ」
采奈は、どうしても僕と付き合うことはできない、と頑なな態度を示したのである。
口では色々と言うものの、きっと、僕のことを内心嫌っているのだと思う。
「……多分、道人は、僕の気持ちが理解できてないと思う」
僕は大きく首を横に振る。
「いいや、十分。理解できてるよ。だから、バイバイ」
「道人、違う! ボクの話を冷静に聞いてくれ!」
「バイバイ」
「道人、行かないでくれ!」
他人の告白を無下にしておいて、「行かないでくれ!」というのは、あまりにも傲慢過ぎないだろうか。
――そもそも、采奈は、そういう性格なのである。
今までの僕は、采奈に恋をしていたので、あばたもえくぼで、そのことが気にならなかっただけなのだ。
采奈は、傲慢で、我儘で、独善的な女なのである。
「道人、もうしばらくここに残って、ボクと一緒にいて欲しい。道人とはじっくりと話したいんだ」
「そんなの絶対に嫌だよ!!」
僕の中で、何かが吹っ切れた。
「僕の気持ちを踏み躙っておきながら、一緒にいたいとか、ずっと友だちでいたいとか、そんなのふざけてるよ!!」
「道人、ボクはふざけてなんかない。それが本心だから……」
「そんなわけないじゃん!! 采奈は、心の広い、優しい人を気取りたいだけなんだ!! ただの偽善者だよ!! 最悪の偽善者だ!!」
僕の口から出てきたのは、僕自身、僕自身の言葉かどうかを疑いたくなるくらいに酷い言葉だった。
「君を好きになったことが間違いだった!! 采奈、もう二度と僕に関わらないでくれ!!」
「道人……」
「バイバイ」
僕は采奈に背を向け、駆け出す。
采奈の引き留める声が聞こえたが、聞こえないフリをして、僕は走り続ける。
そして、一度も振り返らないまま、階段も駆け上がった。
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