暴露
もちろん、その可能性も想定はしていたが、頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。
僕の回答は間違っていたのだ。
――否、僕の回答が間違っていたかどうかは分からない。
あくまでも、地獄丸が「ハズレ」と言っただけなのである。
実際には、僕の回答は正解なのに、地獄丸がわざと「ハズレ」と言った可能性も考えられる。
僕がすべきことは――
僕は、スマホを握りしめたまま、自分の部屋を飛び出すと、階段を駆け下り、居間に向かう。
まだ両親はいずれも帰っていないので、居間には誰もいない。
僕の目当ては、固定電話の子機だった。
僕は、ポケットからメモ用紙を取り出す。
この場合を想定して事前に準備していたものである。
そして、メモ用紙に書かれている電話番号を、子機に打ち込む。
それは、僕が、DMで「地獄丸の正体」として回答した人物の番号である。
仮に、この人物が電話に出て、それでもなお地獄丸の配信が継続するのであれば、僕の回答が間違っていた、ということを確認できる。
番号を全て打ち込み終わり、発信ボタンを押す。
コール音が鳴る。
プルルルルル――
ここで架電した人物が出なければ、検証はできないことになる。
しかし、三度目のコールで、その人物は電話をとった。
「もしもし」
それは野太い男性の声――溝口新多の声である。
僕が、地獄丸にDMで回答したのは、新多の名だった。
新多を回答した理由は二つ。
一つは、消去法である。
すなわち、仲良し六人組のうち、新多以外のメンバーは、地獄丸ではないように思われたからだ。
もう一つは、もう少し積極的な理由である。
地獄丸の配信の存在を最初に僕に教えてくれたのが新多だったからだ。
「第一発見者をまず疑え」ではないが、二回目の配信の直前で、地獄丸のフォロワーは七十二人しかいなかったことを考えれば、新多がなぜ地獄丸の存在に気付けたのか、というのは拭えない疑問なのである。
新多自身が地獄丸なのではないか、と当初から僕は疑っていた。
「もしもし? どちら様?」
僕は、電話口からの問いかけに答える代わりに、スマホの画面を確認する。
銀髪の少女がニコニコと笑っている。
「さて、クライシスさんとの約束が果たせたところで、今度はみんなとの約束を果たさなきゃね」
――完全に負けだ。
電話口の新多の声と、配信の地獄丸の声は、同時に発せられている。
すなわち、
僕は、無言のまま、子機を電話台に戻す。
僕を嘲笑うかのように、地獄丸が、画面上に固定のメッセージを表示する。
「これからついに永倉采奈を殺した犯人を暴露します!」
僕は、スマホの画面を割って壊してしまいたい衝動に駆られる。
しかし、そんなことをしても、何の解決にもならない。
地獄丸を止められる手立ては、もう、ないのである。
「それじゃあ、お待ちかねの暴露をするね!」
地獄丸の勝利、そして、暴露の始まりに、配信の視聴者は舞い上がっている。
「拍手」を意味する無料アイテムのほかに、有料のアイテムも画面上を飛び交っている。
――ふざけている。こうして冷やかしている連中は、おそらく生前の采奈について知らないものばかりだろう。ましてや、あの日の京都の出来事については――
それは、決して、エンターテイメントにして良いものではないのである。
ふざけ半分で扱って良いものではない。
「それじゃあ、暴露します!! 永倉采奈を殺した犯人は――」
その時、地獄丸と目が合った――気がした。
「永倉采奈を殺した犯人は、清周道人だよ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます