答え合わせ

 プレチャの地獄丸のアカウントに、DMで「地獄丸の正体」を送ったのは、十八時五十分――配信の始まる十分前だった。


 すぐに既読が付く。


 正解か、不正解か――僕は、心臓が今にも口から飛び出すような思いで、地獄丸の返信を待った。


 しかし、地獄丸の返信は、拍子抜けするものだった。



「クライシスさん、期限内のご回答ありがとう〜答え合わせはこの後の配信でね!」



 楊広の話はおそらく嘘ではなかったのだろう。

 地獄丸のフォロワー数は、いつの間にやら五百を超えていた。フォロワー欄を見ると、bioに「中学生」と書いているアカウントが目立つ。全てとは言わないが、その大半は僕らの中学の生徒なのだろう、と思う。



 もしかすると、僕は地獄丸の術中にハマってしまったのではないか。

 フォロワーは、地獄丸の暴露もそうだが、もしかするとそれ以上に、地獄丸とクライシスとの「対決」に興味を持ったのかもしれない。


 クライシスの介入は、結果として、地獄丸のフォロワー増に役立ち、地獄丸の思惑どおりの展開を招いたのだ。



――いや、そう考えるのは、まだ早い。


 仮に、僕がDMで送った回答が正しければ、地獄丸は暴露配信を行わないはずなのである。


 消去法だが、自信はそれなりにある。


 クライシスの勝利によって、地獄丸の思惑は潰えるのである。


 これから始まる配信は、そのことを告げるだけのものになるはずだ。



 地獄丸の配信は、今宵も十九時ちょうどにスタートした。


 僕の仮説どおり、視聴者は、地獄丸VSクライシスを楽しみにしているようである。それは、地獄丸が話し始めるまでの間のコメント欄を見れば分かる。



「世紀の対決始まった!」


「地獄丸ちゃん勝って欲しい」


「クライシス、ちゃんとDM送ったのかな?」


「地獄丸勝ったら修羅場だな」


「ところでクライシスって何者?」



 地獄丸は、パチパチとまばたきをするだけで、なかなか話し出さない。


 盛り上がるコメント欄を見ているのか、それとも、視聴者が増えるのを待っているのかは分からないが、いずれにせよ、僕はイライラする。


 視聴者数は加速度的に増えて行き、二分と経たないうちに、五百を超える。



 銀髪の美少女がついに話し出す。



「みんな、お待たせ! 地獄丸だよ!」


 「待ってました!」というコメントが殺到する。



「今日こそは永倉采奈を殺した犯人を暴露したいんだけど、その前に、前回の配信のおさらいね」


 地獄丸は、前回の配信での「クライシス」とのやりとりについて、手振りを交えながら説明する。

 そして、約束のDMが配信開始の十分前に届いたことも報告する。



「ということで、これから答え合わせをしないとね。クライシスさんの回答が正しければ、私は約束どおり、暴露配信をとりやめる。ただし、クライシスさんの回答が間違っていれば、私はただちに暴露配信を開始する」


 この説明の間、視聴者数はさらに三百人ほど膨れ上がり、八百人ほどになっている。まさか、この懇切丁寧な説明も、視聴者を増やすための時間稼ぎなのだろうか――



「じゃあ、運命の結果発表」


 地獄丸は、パチパチと手を叩く。

 それに合わせて、視聴者も「拍手」を意味するアイテムを投げる。



「結果は――」


 地獄丸が答えを溜めている間も、アイテムは投げ込まれ続ける。


 僕は、祈るような気持ちで、スマホの画面に集中する。



「結果は――ハズレ。残念ながら、クライシスさんの負けだよ」

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