思い出
それにしても――
「朝雨の話は、分かるようで分からないんだよね」
「何? 文句あるの?」
朝雨が噛みつく。
「いや、文句があるわけじゃないんだけど、なんか腑に落ちないというか……」
「どういうこと? 私、ちゃんと説明したつもりなんだけど」
朝雨が説明したことに関しては、ちゃんと理解したつもりである。
しかし、もっと根本的なところが引っ掛かっているのである。
「朝雨、今さら僕の身の潔白を知ってどうするの?」
「え? どういうこと?」
逆に僕の指摘が、朝雨にとっては腑に落ちないようである。
「だって、当時は卒業間近だったし、朝雨と僕とは、今日のデートを最後に別れることが決まってるでしょ?」
「そうだね」
「ここまで来たらもうどうでもいいんじゃない? 僕が殺人犯かどうかなんてさ。だって、朝雨と僕とは、すぐに『赤の他人』になるんだから」
それが僕が腑に落ちない点なのだ。
恋人の身の潔白を知りたい、というのは、理解できる。
ただ、なぜ今この時期なのか――
朝雨の話に基けば、朝雨は、僕に告白する以前から、僕が采奈を川に突き落としたと疑っていたらしい。
そのことが気に掛かっているならば、最初から付き合わなければ良いのだ。
裏を返せば、朝雨は、僕が殺人犯である可能性がある知りつつ、僕と交際を始めたはずなのだ。
それなのに、別れる間際に、恋人の身の潔白を知って何になるというのか――
それはあまりにも遅過ぎないだろうか――
「……道人、あなたは何も分かってない」
朝雨が、急に真顔になる。
「道人、私とあなたは別れても、決して『赤の他人』にはならないの」
だって、と朝雨は続ける。
「中学生活は人生で一度きりなんだよ。中学時代の恋人は、一生の思い出だよ。私は、
朝雨の言うとおり、僕は、何も分かっていなかったのである。
「ごめん」と朝雨に謝ろうとしたのだが、それはできなかった。
朝雨が僕に駆け寄り、僕の口にキスをしたのである。
柔らかな唇を離した後、朝雨は、僕に微笑みかける。
「道人、今日は京都で最高の思い出を作ろうね」
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