第50話 現世人間のハム子は今日も元気です①
公花たちが屋敷の外に飛び出すと同時に、神殿は倒壊した。
一気にぺしゃんこになった建築物の跡を見て、基礎の大切さを思い知る。
従業員たちはすでに避難した後で、怪我人はいないらしい。
本当によかったねと満面の笑みで剣に同意を求めたのに、チクチクとした視線を向けられたのはなぜなのだろう?
「日暮……!」
「風間くん!」
あたりはすっかり日が落ちていたが、門の外には風間が待っていた。
公花の潜入に一役買った後、もしものときは突入も辞さないと、ずっと待っていてくれたらしい。
お互い無事でよかった。
けれど誘拐も監禁も、表沙汰にできるようなことではないために、ろくな説明もできぬまま口ごもっていると、剣が前に進み出てきた。
頭のいい彼のことだから、きっとうまく説明してくれることだろう。
「風間。……手間をかけたな」
「蛇ノ目。……もういいのか?」
「ああ」
しばらくの間、ふたりは睨みあうように見つめ合って。
「日暮を危険にさらしてんじゃねーよ。次はねぇから」
「わかってる。……次なんてないしな」
……。……?
それで終わり?
一言も二言も足りないような気がするけれど、それで通じてしまうの?
男の子って便利だ。
剣は公花に向き直り、少し柔らかな目つきになって言った。
「ここはもう大丈夫だ。家の人が心配しているだろう?」
「じゃ、帰ろっか。……あ、剣くんは……もう、うちに避難しなくても大丈夫ってこと?」
「……そうだな。後始末もあるし、放っておくわけにもいかない」
「そっかぁ」
寂しいような、安心したような。
にょろちゃんがいなくなってしまって、桃子ママとおばあちゃんは悲しがるかもしれない。
たまには変身してもらって、遊びにきてもらえないかな――そんなことを考えていると、遠くからパトカーなどの救急車両のサイレンが近づいてきた。
幕引きにはちょうどよい頃合いだ。
*
風間が家の前まで送ってくれて、血相を変えて玄関まで飛び出してきた桃子ママに、帰宅が遅くなった事情を説明してくれた。
用意していた仮の事情――『ひったくりに遭って携帯の入った鞄を奪われてしまい、連絡ができないまま自転車でカーチェイスを繰り広げていた』という組み立てで説明すると、桃子ママはため息を漏らし、玄関先に座り込んでしまった。
「もう、心配したんだから……」
「ごめんね、お母さん……」
今にも警察に届けようかどうしようかと迷っていたところだったらしい。
おばあちゃんもさっきまで近所を探し回っていて、今は疲れて部屋で眠ったところだという。
風間に礼を言い、帰ってもらった後もひととおり怒られて、それが終わってから「ハンバーグ、食べるわよね」と、温かいご飯を用意してくれる。
(そういえば、お昼からなにも食べてなかったよ……)
忘れていた食欲が戻ってきて、あーんと大口を開けて頬ばっていると、桃子ママがわくわくしながら聞いてきた。
「で、さっきの子、彼氏なの?」
盛大に吹き出してしまったハンバーグがもったいない。
「ち、違うからね!?」
遠いどこかで誰かの目が、光ったような気がした――。
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