第43話 強奪されました④
(そうだ、これが使える?)
手の平には、先ほど見つけた銀鱗がある。
家を襲撃した能力者たちが、鱗に込められた力でパワーアップしたと言っていたではないか。
(少し怖いけど……これで私も、真の力を呼び起こせるかも!?)
真の力などというものがあるかどうかはわからないが、えいやっと銀鱗を口に放り込む。
「ん? んん?」
すると視界がみるみる低くなって……。気づけば服の生垣ができている。
(この感覚。このちっちゃな手。お腹もモフモフで、この感じは……え、うそ。ハムスターになってる⁉)
「なっ! どこへ行った!?」
「日暮!?」
服だけが地面に落ちている状況に、黒服も風間も戸惑っている。
下っ端の警備員らは、銀鱗の不思議な力を聞かされていないのかもしれない。ただの宗教組織かヤのつく稼業だと思っているのだろう。
(変身できちゃった……)
自分でもびっくりしたけれど、剣くんも白蛇の姿になっていたし、こういうこともできるのかと納得するしかないだろう。
「女の子を探せ!」
黒服たちは動揺し、注意が乱れている。おまけに勝手口は開けっ放しだ。
(今だ!)
素早く洋服の隙間から抜け出した公花は、門へとダッシュし、敷地内へと紛れ込んだ。
侵入を果たしたものの、それですべてが解決するわけではなかった。
とにかく中の庭は広くて、ハムスターとなった公花の体は小さく、足が短い。
要するに走っても走っても、建物が見えてこない。まるでジャングルの中を彷徨っているようだ。
そうこうしているうち、殺気を感じて、立ち止まった。
はぁはぁと、怪しい息も聞こえている。
(えっ……)
気配のほうを見上げて、硬直した。
巨大な――ハムスターからすれば恐竜か巨大怪獣にしか見えない黒い毛の獣が、こちらを見下ろしていた。お金持ちのお屋敷にはテンプレ装備の番犬、ドーベルマンだ。
(ひぃぃぃ……!)
ドーベルマンはこちらをロックオンしていて、一寸たりとも視線を外そうとしない。だが、なぜか襲ってこようとはしなかった。
首を傾げ、なにか悩んでいるようだ。
理由はよくわからないが、チャンスかも……。
公花はそのまま後ろに下がり、犬をまこうとしたが、ふいに体が浮遊感に包まれて、足元が地面から離れた。
『わっ! わっ! わっ!』
「おっかしいな……。うちのワンコロは、当主と、その加護のある者以外、侵入者には容赦なく噛みつくように訓練されてるはずなのに」
聞き覚えのある人間の声。
首だけ回して振り返ると、見たことのある顔がすぐ近くにあった。
三日月のように細くて、不気味に赤く光って見える、特徴的な眼。
「捕まえた、子ネズミちゃん。俺の前世は、優秀な狩猟犬でね、においでわかるんだよ。あんた、あの家の女の子だろ。……いいサイズになったなぁ」
蛇ノ目家の刺客・黒尾が、つまみあげた公花を目の前にぶらさげて、ぺろりと舌なめずりをした。
*
どうしようもなく不安がふくれあがって、剣は目を開いた。
嫌な目覚めだ。自分はどうしたのかと考えて、身動きがとれないことに気づく。
嗅ぎ慣れた木造建築の匂いに混じって、強い香の匂いも漂ってくる。
白紫の袴装束を身につけて魔法陣の上にいる自身の姿は、なにかの儀式の途中のようにも錯覚したが、どうも違うようだ。
彼の手足は、鎖で拘束されていた。拘束具の先は、地面に打たれた杭に繋がっている。
破れないかと力を込めてみたが、無駄なあがきに終わる。陣の上では、神通力が無効化されてしまうらしい。
今の自分は、非力な人間と変わらない……。
だが、人間の姿に戻れたこと自体は幸いだ。この屋敷は神通力が発揮しやすいよう、気の流れが集まる力場になっている。皮肉なことに、ここにいると幾分、回復が早まるのだ。
周囲を見回し、部屋の様子を確認する。
蛇ノ目家地下の空き部屋に間違いない。
本家に連れ戻されたことはわかるが、この状況は一体どういうことなのか。仕置きのつもりか、それとも別の意図があるのか……。
どちらにせよ無駄なあがきはすまいと、陣の上でたたずまいを直したところで、誰かが戸を開け、すり足で近づいてくる気配がした。
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