第32話 忍び寄る魔の手①
学園では、剣は体調不良で休みということになっている。
騒ぎにはなっていないようだが、本家では血眼で、当主の行方を探しているだろう。
十日あまりが経過しても、剣の姿は元には戻らなかった。
公花が学園に行っている間、はじめは家で留守番をしていたのだが、先日からそれを改めることにした。
二日前から、公花のトートバッグの中に忍んで、一緒に学園へ連れて行ってもらっている。
退屈で仕方がないのだと公花には伝えていたが、実際には、別の意図があって――組織の者たちが公花に手を出さないか、心配しているのだ。
(家にいるとおばあちゃんが怖いという理由では、けっしてない)
数日前、公花は一度、怪しいスーツ姿の男たちに声をかけられ、黒塗りの車に連れ込まれそうになっていた。
「聞きたいことがある」と言っていたという男たちは、蛇ノ目家の息がかかった者たちで間違いない。
弱っていたとはいえ、こんな簡単な事態も予測できずに平穏な日々を貪っていたとは、御使いたる己の腑抜け具合に呆れるしかない。
そのときは幸いにも、剣のクラスメイトの「とある男子」が通りかかり、助けてくれたらしいのだが――。
「風間くん、いい人だったよ~。それから私のこと、すごく心配してくれてね。帰りに送ってくれたり、なにかあったら俺に相談してって――」
『あぁもういい、その話は聞きたくない』
白蛇はフンス、と鼻息を荒くした。
風間隼人が公花に想いを寄せているであろうことは、以前から知っていた。
不良めいて見えるが、中身は真面目な男で、バスケットや競輪などさまざまなスポーツにおいて優秀な成績を残しているらしく、ただの人間にしては多才な人物だ。とくに趣味の競泳は全国クラスの実力者だという。
(あいつ、名前からして前世は風属性の生き物だろう。鷹だかトンビだか知らないが……それがなんで水陸制覇してるんだ。前世が鳥なら、黙って飛行機でも飛ばして遊んでいればいいものを……)
腹立たしいが、自分が目を離していた隙に彼女を助けてくれたことには、礼を言わねばならないと思っている。心の中で、ほんのちょぴっとだけ感謝してやらんでもない。
『……公花、今日は右の道を行こう』
「はーい」
体の負担にならない程度に神通力を張り、危険を察知して避けるように移動する。
目立たないように隠れてはいるが、よく見れば通学途中、ところどころに黒服の男たちが潜んでいるのがわかった。
今は、もう公花に対し、無理強いする気はなさそうだが――。
蛙婆女は公花の存在を知っている。様子を見ているのかもしれないが、このままただの監視だけで済むとは思えない。
だが、剣のゆくえを探すためだけに、一般人の公花を痛めつけたりするだろうか? ……あいつらなら、やりかねないかもしれない。
もし相手が本気で動いた場合、今の自分で対抗できるかどうか――。
組織の手駒になるのは嫌気がさしていたが、場合によっては大人しく従うしかないと考えていた。
「絶対、誰にも見られないようにしてね。学園の皆にまで、爬虫類マニアだと思われたら嫌だもん。わかってる? にょろちゃん!?」
『おい、おまえまでその名で呼ぶんじゃない』
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