第28話 神の御使いをお迎えしました①

 校庭でポールや三角コーンなどの用具の片づけを手伝いながら、公花は、ぼんやりと校舎のほうを見つめた。


 体育祭は、公花が属する赤組が、見事優勝を飾った。

 けれど勝利を喜ぶ気持ちは、半減してしまっている。


(剣くん、大丈夫かな。倒れて、保健室に運ばれたみたいだけど……)


 閉会式の後、放課後になって図書室で待ってはみたのだが、彼は姿を見せなかった。


 下校する前に保健室も覗いてみたのだが、そこにも彼の姿はなく。

 家の人が迎えにきて、帰宅したのだろうか。


 どうしてか不安で、胸の奥がチクチクしている。

 夕立に見舞われそうな、黒い雲が遠くに迫っていた。


       *


「ただいま~」

「おかえり、公花。晩御飯ちょっと待ってね。炊飯器のスイッチ、押すの忘れてたのよ~」

「うん、まだお腹空いてないから、大丈夫」

「あら、めずらしい……具合でも悪いの?」

「ううん、ちょっと疲れただけ。少しゴロンとしてくるね」


 帰宅してすぐ自室に入り、疲れの残る体をベッドに横たえた。

 眠れそうで、眠れない。


 窓を開けていても、蒸し暑いのはどうにもならない。エアコンは設置されてはいるが、なるべくつけずに節約している。


(明日は、剣くんも元気になっているといいな――)


 大丈夫。明日になれば、学校でまた会える。


 そっと瞼を閉じた。



 ――少し、眠っていたらしい。すぅっと意識が浮上していくのを感じる。


「うーん……」

 ベッドで半覚醒のまどろみを味わっていると、ふいに生ぬるい風が吹いて、頬を撫でていった。


 チリッと毛が逆立つ感覚がして、目を開く。


「――……?」


 目の前にいるそれと、視線が合った。


 白いミニサイズの「蛇」が、胸の上に乗って、自分を見下ろしている。


「……え?」


 こんなぬいぐるみ、部屋にあったっけ。

 ひょっとして、お母さんのいたずら?


 微動だにせずじっと見つめていると、白蛇がちろりと舌を出した。


 生きている!?


「ひぃやーーーーーーーーー……!!」


 家を震わす、大絶叫が響いた。


「キャーキャーキャーキャー!」


 狂ったように叫びながら、布団をおっ被せて捕獲する。

 夏布団なので厚みがなく、細長いソレが布地の下にいるのがわかる。じたばた暴れている様子が伝わってくるのが、なんともおぞましい。


「蛇、蛇、蛇ぃ~~~~っ」


 一体どうして。窓から入ってきたのだろうか。


『……花。公花! 落ち着けっ』

「……え?」


 どこからか、聞き覚えのある声がした。

 動きを止めて、きょろきょろと視線を走らせる。


「その声は……剣くん?」

『そう、俺だ。ちょっと力を緩め……』


「どこにいるの? 今、手が離せなくて……っていうか手伝って! 大ピンチなのっ」


 なんで自室にいながら、姿の見えない剣の声が聞こえるのか。

 よくわからないが助けを求めて叫ぶ。


『いやだから、布団の……』


「そう、布団の中がまずいの! 一大事なの~っ」


『く、苦しい、空気が……殺、す、気か……』

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