第40話 強奪されました①
「ねぇくるみちゃん、弱った神様が力を取り戻すには、どうしたらいいと思う?」
「え~? どうしたの、神頼みしたいことでもあるの?」
「うん、まぁそんなところ」
「そっかぁ。そうねぇ、信仰を集めるとか、お供え物するとか……?」
突然の怪しい質問にも関わらず、きちんと向き合ってくれる友人は貴重だ。
自分は強運だが、特に人の縁には恵まれていると思う。
放課後、公花は図書室のいつもの席で、民俗資料の本を調べてみることにした。
本棚の高い位置にある手の届かない本を、代わりに取ってくれる人は、今はいない。
目を覚まさない剣の回復を待っていることしかできないなんて、そんなのは嫌だ。だから、できることがあればなにかしたいと思ったのだ。
なにせ帰宅部ならぬ勉強部で、スパルタ顧問教師であった剣は病気休職中。やることがない……わけではないのだが、自由にできる時間はたっぷりある。
そばから手離さないバッグの中に向けて、念じた。
(早く元気になって、また勉強教えてよ、剣くん……)
耳に涼しい声は、返ってはこない。
*
――土曜日。
「公花、今日、壁紙張り替えの工事の人が来るから……あらどこか出かけるの?」
「うん、ちょっと図書館に」
自転車の鍵を引き出しからつまみあげながら、母に行き先を告げる。
結局、学校の資料では参考になるものがなく、町の公共図書館へ行ってみることにしたのだ。
桃子ママが目を見開いた。
「公花が休みの日に勉強っ……」
そこでショックを受けるのはなぜなの、お母さん。
「にょろちゃんのこと、調べようと思ってるんだ」
白蛇が冬でもないのに眠り続けていることは、桃子ママも知っている。原因不明でペットショップにも相談に行ったが、なにもわからなかったと事情も工作済みだ。
桃子ママは頷き、目尻を緩めた。蛇の生態について調べにいくのだと理解したのだろう。
「そう……そうね。偉いわ公花。にょろちゃんはもう家族みたいなものだもの。早く元気になるといいわね」
「うん……行ってくるね」
「夜は公花の好きなハンバーグにするわね」
「わ、やった!」
心配をかけぬよう、いつもの自分で。
やる気を増したような風を見せながら、家を出た。
自転車を二十分ほど走らせて、町のはずれの図書館へと到着した。
施設は近年、見晴らしのいい丘の上に新しく建てられたもの。清潔で近代的な建物で、住民にも人気があるらしい。
けれど今までは積極的に来ようとは思わなかった。図書館というと「勉強」というイメージがあったから……。
けれどいざ足を踏み入れてみると、漫画で紹介する歴史の本や、ライトノベル、音楽CDが聴けるブース、インターネットコーナーなんかもあったりして意外に楽しいこといっぱい。
彼は本が好きだったから――元気になったら、一緒に来ようかな。
そんなことを考えながら、民俗資料の棚の前へ行き、都市伝説、古い伝承などを扱う本を数冊選んで、閲覧スペースへと移動した。
明るい窓際の席を選んで着席する。
パーテーションで区切られて、プライベートも守られているから安心だ。
「よっし、読むぞ」
気合いを入れてページをめくる。
難しい話になってしまうと眠くなってしまうのだが、資料は絵本としても価値が高く、妖怪の絵や、怖い話などもあって退屈しない。
(そういえば、ハムスターの妖怪っていないのかな?)
なんて寄り道しながらも、手がかりを求め探していくうちに、とある記述を見つけた。
『妖とは、大蛇、猫又、河童、妖狐、天狗――古来から語り継がれる不可思議なる存在。妖怪とも呼ばれるそれは、ときに人知を超えた存在として神格化されることもある。
大蛇などは、生贄を要求する「やまたのおろち」をはじめとして恐ろしい悪神として書かれていることが多いが、反面、永寿と幸運をもたらす蛇神として知られている。脱皮を繰り返し、死と再生を繰り返すことから、不死の象徴ともされ、人々の畏敬の対象となった。その名も――
「
なんだか舌を噛みそうだと公花は思ったが、蛇神の詳細な記載を見て、きっと彼はこれに類するものなのだろうと理解する。
(うなじん、だって……どうりで、おばあちゃんによくウナギと間違われていたもんね!)※無関係です。
イラストも添えられていて、頭は人で、体は蛇。とぐろを巻く姿は不気味な異形以外のなにものでもなかったが、雨を司る龍神、穀物や財を司る福の神として、ありがたく祀っている神社もあるのだと。
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