第11話 日暮家と蛇ノ目家①

「お母さん、ただいまー!」


 二階建ての家々が立ち並ぶ、のどかな住宅地。

 学園から徒歩圏にある公花の家は、校門を出てからのんびり歩いて二十分もあれば到着できる。


 3LDKの古い建物だけれど、縁側と広い庭があり、日当たりのいいこの家が、公花は大好きだ。

 母親の桃子と、父方のおばあちゃんと、自分の三人で、わちゃわちゃ暮らしている。


 父は自由人で、冒険家を名乗って外国を飛び回っており、今もしばらく家を空けたままだ。

 大黒柱としての役目を果たしているのか気になるところだが、お花屋さんでパートしている母がそこまで苦労している様子はないから、まぁ大丈夫なのだろう。


 公花が玄関で靴を脱いでいると、いつもニコニコ元気印の桃子ママが、リビングから顔を出した。

 料理をしていたのだろう、花柄フリルのエプロンを身につけて、おたまを手に持っている。


「おかえり、公花! 今日は学校、どうだった?」


「楽しかったけど、疲れた~……主に放課後の勉強が……」


「え、なぁに? 最後のほうが聞こえなかったけど。まぁいいわ、今日のお夕飯は、クリームシチューよ」


「シチュー!? やったぁ、お母さんのシチュー大好き!」


 一緒にリビングに入っていくと、ソファに座ってテレビを見ていた福子おばあちゃんが、フゴフゴと顎を動かして、公花を迎えた。


「おばあちゃん、ただいま!」

「おかえり、桃子さん」

「桃子はお母さんだよ、私は公花」

「キミちゃんかい、お疲れ様」

「お疲れ様、おばあちゃん」


 おばあちゃんは高齢なので、ちょっとボケが入ってきているが、体調的にはまだまだ元気だ。甘い物、とくに和菓子が大好きで、色白のほっぺたが餅のように垂れさがっている。


 台所から、桃子ママが呼びかけてきた。


「公花~! お庭の洗濯物、入れちゃってくれる?」

「はーい」


 窓のほうに目をやると、庭の物干し竿に、洗ったタオルや洋服が干してあるのが見える。


 おばあちゃんの前を通り抜け、庭へと続く窓を開けた。

 すぐのところに用意してある外履き用のサンダルに足を入れかけて――。


「……あっ!」

 公花は、動きを止め、目を見張った。


「蛇だ……」

 庭の植栽の陰に、小さな白蛇が、こちらを向いて佇んでいた。


 ぶるぶるっ! 蛇は怖い! 天敵だ。

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