第12話 日暮家と蛇ノ目家②
しかしその蛇さん、鱗は発光し、輝いているかのように美しい。
神秘的な真珠のような瞳に、目を奪われてしまう。
怖いのに……不思議と惹きつけられて、目が離せない。
「公花、どうしたの?」
桃子ママが様子を見に、近づいてきた。
「あそこに白蛇が……」
「えっ! やだ、追い払って! お母さん、にょろにょろしたものは苦手」
「公花さん、そんなこと言っちゃいけないよ」
いつの間にか後ろに立っていたおばあちゃんが、真剣な面持ちで言った。また公花と桃子の名前を取り違えている。
「白蛇を見たら、家に幸運が訪れるというよ。ありがたや、ありがたや……」
小さな蛇に向かって手を合わせるおばあちゃん。
「そうなんですか? それなら……」
素直な桃子ママも、一緒になって拝み始めた。
公花も、右に倣って同様に。
それでも蛇は生理的に苦手らしい桃子ママ。念仏はすぐに弱音に変わる。
「ありがたや、ありがたや……でも怖いから家の中には入ってこないでくださいね……くわばら、くわばら……」
「もう行っちゃったよ、お母さん」
「あらっ、そう?」
白蛇はするんと尾を揺らし、背を向けて、塀に入ったヒビの隙間から、外に消えていった。
桃子ママはホッとした様子で、鍋を火にかけたままだったことを思い出したのか、慌てて台所へと戻っていった。
「あぁ、いいもの見たねぇ」
おばあちゃんも満足そうに、ソファの定位置へと戻っていく。
公花は洗濯物を取り入れながら、
(びっくりしたけど、おばあちゃんが嬉しそうだから、よかった。白蛇さん、ありがとう)
と内心で礼を言った。
まぁ、生き物の相関図的に、苦手なものは苦手なので、もしまた来られても困ってしまうのだが――。
*
地域では知らぬ者のいない名家、『蛇ノ目家』――。
重厚な日本家屋、頑丈な門構え。塀沿いには無粋な防犯カメラが目を光らせている。
都会の喧騒から離れた、閑静な高級住宅地に、その大邸宅はあった。
剣を乗せた黒塗りの車が、敷地内に入って停車する。
運転手が先に車から出てきて、ぐるりと回り込んで後部座席の扉を開ける。
剣が顔を見せ、車の外に降り立った。
敷石の脇にずらりと並んで待ち構えていた黒服の使用人たちが、剣に向かって頭を下げる。
玄関先で迎えるのは、貫禄のある年配の女性――エラのように張った頬、曲がった腰、両目の位置が離れ気味で、どこか蛙を連想させる顔立ちをした和装の老婆が、杖をついて立っている。
老婆は、数歩前に進み出ると、剣に対し、視線を伏せた。
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