第10話 蛇ノ目剣は裏で暗躍する④

 怪しい動きを見せているのは、女子生徒がひとりと、太っちょと痩せのコンビみたいな男子生徒がふたり。


 女のほうは、さっき図書室で声をかけてきたやつだ。表情はだいぶ凶悪に変わっているが――。

 振られた腹いせか、相手を脅して身を引かせようという思惑で、公花に危害を加えようと企んでいるのだろう。


 自分が公花に勉強を教えていることは噂になっている。公花をいじめようとするグループが出てくるのも、想定内だった。


 閑静な住宅路。人目がないことを確認した女生徒が、子分の男たちに突撃の指示を出す。

 連中が距離を詰め、公花に近づいていく――。


 だが、公花に声をかけられる前に、彼女らの前にこちらの車を割り込ませた。

 公花のほうは気づかずに先の角を曲がっていき、姿が見えなくなる。


「えっ? なによ、この車……」

 足止めを食った三人組は、突然現れた黒い車に驚き、焦っている。


 車外に出て、三人を睨み据えた。

「……」

「つ、剣くん……? どうしてここに……」

「ごたくはいい。俺の目を見ろ」


 逆らうことを許さない「命令」に、吸い寄せられるように集まる三人の視線。こちらの瞳孔に釘付けとなる。

 彼女らの目つきは、戸惑いの色から催眠術にかかったかのように焦点を失い、ぼんやりとして──。


 身の程知らずな三人組は、釈明の余地も与えず、ボコボコに痛めつけてやった。

 もちろん物理的にではない。俺の持つ神通力により、精神的な痛みを与えたのだ。


「助けて……もう食べられない……太る、太っちゃう~」

「おがあちゃぁん、置いで行がないでぇ~……」

「ヒィィ……猫が! 僕、猫アレルギーなのにぃ……」


 三人は地面に寝転がって、各々の深層心理にこたえる悪夢に苛まれている。


 幻惑の術を解き、それでもまだ動けずにいる女生徒の顎を上に向けさせた。

 蔑みの視線を込めて見下ろす。


「あいつを手の平の上で転がしていいのは、俺だけだ。忘れるな」

「ごめ、なさ……もう二度と……しませんから……」


 相手が震え上がっている様子に満足したら、恐怖感だけを心に残して、記憶を消す術をかけるのを忘れずに。

 これで、「なんとなく」身の危険を感じて、公花を傷つけることはなくなるだろう。


 公花に絡んでいきそうなやつは、奥歯ガタガタ言わせて先にシメておく。


 ――こうして、公花の平穏は守られているのである。

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