第8話 蛇ノ目剣は裏で暗躍する②

 お互いに、「以前お会いしましたね」「そうですね」で片づけていい事象とは思えない。


 偶然ではないとしたら、なぜ、自分たちは出会ったのだろう。

 なにかの縁を感じざるをえないが――。


 まぁ、焦る必要はない。

 一緒にいれば、またなにか思い出すかもしれないし……。


「うーん、うーん」


 と、大きすぎる独り言が耳に届き、手元に開いていた本から視線を上げた。

 いまや全興味の対象である前世ハムスターの少女は、目の前の席で変な顔をして唸っている。


「どうした? 問題は解けたのか」

「無理ぃ……頭から煙が出そうです、剣先生……」


 放課後、図書室の一角に陣取って勉強を教えているのだが、与えた課題でなにがそんなに難しいのか、正直さっぱりわからない。

 頭はかなりのドあ……ごほん。勉強は得意ではないらしい。


 退学のおそれがあるほどのバ……勉強を苦手としているらしいが、彼女に去られては困るので、全力で阻止せねばならない。


(まぁ、この俺にかかれば、すぐに理解できるようになるだろう)


「どこがわからない? 見せてみろ」

 彼女のノートを覗き込んで、「んっ?」と目が点になる。


「……なんだ、このXXって」

「え? だって、Xを左から右に移項したから……」


「普通に2Xと書けばいいだろう」

「あっ、それでいいんだっけ」


 答え合わせを進めるごとに、眉間の皺が深くなる。


「方程式の解き方から教えなおさないといけないのか……。ん? こっちの問題は……どこをどうしたらこうなるんだ」

「え~っと、雰囲気で……」

「ちゃんと公式を使え! 覚えろ! さっきの解説を聞いていたのか? この頭お花畑の生ハム宇宙人が!」

「ぴえぇぇ」


 こんなにどんくさい人間は初めてだ。

 俺の不完全な記憶の中でも、ここまで絶望的な試練はほかにあるまい。


 目の前の超人的な愚か者の眉間を指先でぐりぐりとやりながら、やっぱり先ほどのイメージ映像は美化しすぎていると悟った。

 イージーモードだった人生にスパイスを加えるにも、ほどがある。


 腹いせに公花をいじめていると、横から近づいてくる気配があった。


「あの……蛇ノ目くん」

 声をかけられたほうへ視線を向けると、頬を赤らめた女生徒がそばに立っていた。


(はぁ、またか)

 公花とこうしていると、毎回、何度となく邪魔が入るのだ。


「今は取り込み中なんだけど、なにかな?」

「あの……ちょっとお話したいことが……」


 用件はわかっているのだが、優等生として振る舞っている自分は、表向きは無下むげにするわけにもいかない。

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