第22話 猪突猛進なあの子は省エネを許してくれません②
思うように物事は運ばなかった。
なぜなら、唐突にトラブルを引き寄せる「問題児」がいるからだ。
「公花っ、ちょ、おまえ、またっ……そっちに行くなって……!」
「え?(ぽけー)」
見ているそばから、厄介ごとに自ら首を突っ込んでいくちんちくりん。
剣の「嫌な予感がする」方向へと歩いていった公花は、園芸委員が花壇への水やりの最中、誤って振りまいたホースの水を、その身に浴びていた。
「大丈夫、ただの水だし、すぐ乾くよ~」
「はぁ……そんなこと言って、風邪ひくなよ? まったく……」
このほかにも、目の前で鳥にフンを落とされかけたり、バナナの皮に滑ったり、ひったくりに狙われたりと、心配には事欠かない。
細事ならよいが、一緒に住宅街を歩いていて、彼女の頭めがけて集合住宅のベランダから植木鉢が落ちてきたこともあった。
力を使わざるをえない場合は、迷いなく使って阻止したが、これでは彼女もこちらも、命がいくらあっても足りはしない。
わざとこちらを疲れさせようとしているのかと思うほど、負の連続攻撃を繰り出してくる。
(一体なんなんだ……?)
組織の者が関わっているのではと勘繰ったが、証拠はない。
蛙婆女は、剣が下界の者とみだりに関わるのを嫌っている。もしかしたら公花と引き離そうとしているのかもしれないと疑ってはいるのだが――。
そうだとしても、尻尾は出さないだろう。
それに狙いもわからない。ただの人間である公花を排除してどうなるというのか。
(今日も家まで見送ったほうがよさそうだ……)
放課後の勉強会の後、校門を出て、いつもの帰り道を公花と歩く。
「……前に体育の授業で捻った足は、もう平気なのか?」
「んー! もうすっかり治ったよ!」
ぴょんこぴょんこと飛び跳ねる公花。
本人は至って元気なようだし、悩みもなさそうで羨ま……いや、そういう一面は頼もしいし、こちらも安心なのだが。
「公花。もし家に帰ってから、なにかおかしなことがあったら……、公花? おい公花」
振り返ると、彼女の姿は忽然と消えていた。
(どこへ行った!?)
数秒前まで隣を歩いていたのにと、ぎょっとして周囲を見回す。
「剣く~ん……ここだよ、ここ~」
声のしたほうに目をやると、なんと道路の舗装工事中の穴を塞いだ鉄板がずれていた。
公花は、その穴に落ちて、二メートルほど下の穴の底から手を振っていた。隙間からすとんと入ってしまったらしい。
「なにをやってるんだ、まったく……」
神通力を使うほどでもないので、引っ張り上げて、事なきを得る。
「怪我はないのか?」
「全然平気。今回は、足からきれいに着地したから。こう、平行移動みたいに」
まったくどんな落ち方をしたんだ。
「おまえ、やっぱりちょっとおかしくないか。強運スキルはどこへいった? それしか取り柄がないのに、由々しき事態だぞ」
「え? いや、運はいいよ? だってほら、剣くんも一緒のときだったから、すぐ助けてもらえたし。それに、誰かの落とし物も見つけたの。穴の底に落っこちてた」
そう言って、どこの誰のものかわからない古臭い柄の巾着袋を、「ほらねっ」と見せてくる。
「落とした人、困っていると思うから警察に届けよう。いいことしちゃったな~」
「いいことって……」
袋の中身まで確かめたりはしないが、どう見ても、犬の散歩で持ち歩くエチケットグッズ。そんなに大事そうには見えない。
落とし主だって、たいしたことのないものだから、そのままにしておいたのだろう。
「そんなもの、放っておけばいいのに」
「ダメだよぉ、そんなこと言ったら。私が落ちたことだって、きっと意味があるんだよ。きっとね!」
「……」
そうか、と答える代わりに、小さく笑った。
落ちたことにも意味があったなんて、公花らしい……。そう考えていると、
――カァ、カァ……。
電線に止まっていたカラスが一羽、飛び立っていった。
(普通のカラスか……?)
組織が監視のため使っている「式神」かもしれないと、目で追うが……。
見分けがつかないうちに姿が見えなくなってしまった。
*
『おまえ、やっぱりちょっとおかしくないか?』
『そんなことないってー』
強運スキルが弱くなったと剣に言われたが、公花にはまったくそんな実感はなかった。
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