第3話 前世の天敵から逃れられません①

 新しい教科書、部活動の勧誘に、オリエンテーション。

 目まぐるしく一カ月が過ぎ、新緑鮮やかに色味を変えた、五月の連休明け。


 新入生たちがようやくクラスに馴染み始めた頃にやってくる、最初の試練――。


「うーん……うーん……」


 教室の窓際の席にて、目の前の答案用紙を前に、公花は軽い頭を重く悩ませていた。


 受験が終わったばかりだというのに、入学早々、テストがあるなんて。

 しかも今回は、試験範囲が非公表の実力テスト。学年における現在の自分のレベルを明らかにされるらしい。


(やっぱり進学校は違うなー)


 小・中学校で習った内容からの出題で、テスト用紙の右上には「一般常識レベル」とご丁寧に印字されている。


 例えば、問題はこんな感じ。


【地理の問題 次の地図記号について意味を答えなさい】


①『卍』


(あ、これ知ってる。漫画で見たもん。答えは『まんじ』だよ、楽勝~)


 ※違います。


②『X』


(……ばつ、ばつだから危険? ガソリンスタンド!)


 ※違います。


③『Y』


(洗濯物の物干し竿っぽい形だね。わかった、クリーニング屋さんだ!)


 ※違います。


 サービス問題を前に珍解答を連発しながら真摯に取り組むも、終盤には眠気も襲ってきて、今度は問題文が二重、三重に見えてくるという苦難に見舞われる。


(眠い……助けて……)


 身悶え、のたうつように時を過ごし、やがて解放の鐘のごとくチャイムが鳴り――。


「終わったぁー!」

 答案用紙を前列の生徒に回し、両腕を上げて伸びをする。


「キミちゃん、どうだった?」

 隣の席の松下くるみが、テストの出来栄えを聞いてきて、公花はニコッと笑顔を見せた。

「まぁまぁかなっ! くるみちゃんは、どう?」

「うん、わりと解けたと思うけど、どうかなぁ~」


 公花は答えがわからなくとも、空欄は作らない主義だ。書くところはすべて埋めるから、なんとなく、よくできた気になってしまう。

 だが、埋めたからといって答えが合っているわけではない。


(だけど皆も、きっと似たようなものだよね~)


 そんな楽観的な予想は、テストの返却が始まるとともに粉々に破壊されたのだった。


       *


 担任の田中から職員室に呼び出された公花は、悲惨な点数のテスト用紙を前に、人生の指導をされていた。


 国数理社、二十点、三十点台のオンパレード……英語にいたっては眠気のピーク時だったこともあり、解答欄までずれていて、点数一桁台の九点だったのである。


 しかも点を稼げた部分は、選択式問題(勘で当たった恐れあり)のみという体たらく。


 田中は、怒りというよりも愕然とした表情で、公花に尋ねた。

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