第6話 前世の天敵から逃れられません④
「そんな殺生な。ちょっと扱いが酷すぎやしませんか先生!」
「おまえのためだろうがっ! なんの不都合がある!? 人の好意は素直に受け取りなさいっ」
職員室でギャーギャーと騒ぐ教師と教え子。他の先生方の視線は厳しいが、ふたりは気づいていない。
田中は、ただの一男子生徒をまるで神と崇めるかのごとく、手を擦り合わせながらキラキラ光線を飛ばして言う。
「でも、いいのかい? 剣くん。君の高尚な趣味の時間を邪魔してしまうんじゃあ……」
「大丈夫ですよ。彼女が問題を解いている間、本を読んでいればいいんですから」
公花の意向は無視して、そうかじゃあヨロシク、で話はまとまってしまう。
「学年トップが教えてくれるなんて、日暮は本当に運がいいなぁ~。よかったな、日暮! ははは!」
田中の笑い声が、悪魔の叫びに聞こえる。
「先生っ、私は承諾していませんからね!?」
「……退学になっても、いいのか?」
ぼそりと呟いた田中の言葉に、背筋が凍った。
(た、退学……それは困る……お母さんが泣いちゃうよ……。いや、でも……ちょっと待って、ここはポジティブに考えよう。この人は本当に心の底から私のことを心配して、助けてくれようとしているのかもしれない……。彼は、昔とは違うんだ。もう蛇じゃない、人なんだから)
そうっと剣の表情を確認すると、彼は首を傾げて、穏やかな笑みを向けてきた。
めちゃくちゃ爽やかではないか。
聖人のごとき王子様スマイルが眩しい。
(……なんか大丈夫そうかも。彼はすごく頭がいいみたいだし、試験のポイントとか、丁寧に教えてくれるんだよね……? うん、それなら悪いようにはならないはず)
ぱぱっと皮算用して、チーンと安易な答えをはじき出す。
若干、頬を引きつらせながらも、公花は言った。
「じゃあ、よ、よろしくお願いします……?」
「こちらこそ」
にっこりと笑ったお顔は、やっぱりイケメン。
(わぁ……かっこいい)
思わず見惚れてしまった。
目の保養を通り越して、なんだか目がつぶれそうだ。
「中間考査、期待してるからな~!」
田中に送り出され、ふたり連れ添って職員室を出た。
「え~と、蛇ノ目くん…さん…?」
「剣でいい。敬語もいらないよ、公花」
いきなり呼び捨てでいいんですか。
でもなぜか、それも自然な気がする。
一応、知り合いなんだもんね。何百年も昔の話だけれども。
「剣、くん……? なんか、お手数おかけします……。あの、ほんと適当でいいんで……?」
「なにを言ってる。俺が教えるからには、死んでも学年上位に食い込んでもらう。少しでもサボるそぶりを見せたら、一生後悔するほど仕置きをしてやるから、そう思え」
「えっ………………」
(なんか怖い!?)
優等生の仮面を脱いだ悪魔は、先ほどまでとはうって変わったどす黒いオーラを発しながら、にやりと口角を上げて言った。
「逃げたら……前世の教訓が身に染みて、わかってるよな?」
かくして放課後、図書室にて望まぬ個人レッスンを受けることになってしまったのだった。
(そんな! 返して、私の平凡な学園生活~!)
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