フレイム騎甲館にて──整備班と専属法術式士 一
リリィ達が食堂で食事を始めた一方その頃、三騎の
(やれやれ、毎度よくここまでブッ壊してくれるもんだリリィュお嬢様は)
武装実験部隊フレイムの魔刃騎甲はこの場にある三体のみである。他の部隊に比べると整備作業は実のところ多少ではあるが楽なものなのだ。本来〈ハイザートン〉という
実際、長距離支援狙撃に特化されたダイス騎〈ハイザートン〉と大盾装甲型の近接援護特化されたエイモン騎の損耗率は大したものではなく筋肉を初めとした魔獣素材や鉄部品等の交換は必要なかった。
だが、新規開発の
(聞けば
マリオ整備主任は大きく肩を回して本来の武装実験任務までに万全な整備をおこなえるかと考える。何をどうしても応急処置程度にしかならなさそうであるのがこの部隊の専属整備主任としての意見ではあるのだが。
(しかし単純に、もう相性が悪いんだろうと思うよ〈ハイザートン〉と
そんな事を面と向かって言ってしまえば、この指揮型〈ハイザートン〉を気に入っているリリィは悲しむだろうと考えるとマリオ整備主任の溜息は大きい。とにかく今は動かせるように整備をするだけだと他の整備員達と自分の心にハッパをかけようとしたその時。
「おーい、マリオジいるかーいッ!」
マリオの名を呼ぶ妙に甲高い女の声が整備場によく響き、作業していた全員がその声の主に振り返るのだった。
「うあっ、なんだよみんなしてこっち見てえぇ、ビックリすんじゃんかよッ」
整備作業の忙しさに表情が厳つくなったままの整備員が一斉にこちらを向くので声の主である「サマージェン・カーター」は声の大きさだけは威勢よくビビり散らかして
「おいオメェら、カーター先生が怯えてっから作業に戻れッ、綺麗なお顔が拝めて嬉しいのは
「び、ビビり散らかしてなんかねえしッ、て、マリオジいぃっキレイなお顔とか言って褒めても何も出ないかんなッ。あたしをチョロい女だと思ってんじゃねえぞッ」
マリオの稲妻のように響く声に整備員達は慌てて作業に戻り、ビビり散らかしと綺麗なお顔と言われたサマージェンは立腹と羞恥の入り混じった頬赤らな複雑とした表情で真っ赤な長い爪を突きつけて小走りにマリオの元にやって来る。
「何言ってんだ、オメエさんがバッチリ美人なのは事実だろうがよ?」
「うわはああああぃっ、やめろよウッ。ムズ痒くなっちゃうよッ」
黙ってればな──という余計な事は口にせずにからかい半分に偽りなく言葉を返してやると突きつけていた長爪をへにゃりと崩して両手で露出した肌に爪を甘く引っ掛けて掻きながら地団駄と足を踏み鳴らして羞恥耐えるサマージェンの姿を眺めて手を止めている整備員をマリオがひと睨みすると整備員達は慌てて自分の作業に戻っていった。
(たく、しょうがねえな)
と、半目で呆れながらも気持ちはわからなくもないとマリオ主任は男として若い衆の反応の理解だけはする。サマージェン・カーターの服装は真白な布服に赤と黒のツートンカラーの短いスカートで両手足を健康的に晒しているのだ。上から下まで覆うサイズの大きい
「そ、そんな事よりマリオジ、リリィの〈ハイザートン〉ちゃんの
「そうさな、見ての通りの脚部内の鉄製部品交換でバラしちまってるからな、鋼加筋肉の肉付き点検も考えると結構時間かかるぞ?」
「あちゃあ、やっぱりかぁ。きっかり組み立てて貰わないと
サマージェンはいまだ下半身の外装部がバラバラになった内部の魔獣鋼加筋肉が剥き出しな〈ハイザートン〉を眺めながらため息混じりに白法衣のポケットに手を突っ込んで手持ち無沙汰だなと充血させた疲れ目でまばたきをした。
「なんならよ、組み立てるまでは食堂でメシでも食ってくればいいんじゃねえか?」
「それはぁ、さっき行ってきたぁ。今は行きたくなーい」
少し仏頂面になったのを見て、何か今は会いたくないヤツでもいるのだろうと推測すると同時に余計な事は言わないように口髭たくわえの口を閉じた。
「んおいッしょ、よぉし、他の〈ハイザートン〉の術式チェックでもしてリリィ騎の術式再構築準備して待っておこうかなぁ。いいかい?」
「そりゃ、構わねえけど組み立てまで本当に長いぞ?」
「大丈夫大丈夫、リリィのは結構な難産になっちゃいそうだからジックリと他の子ちゃんを弄らせて貰うよ」
サマージェンはニヘラと白い歯を主張する緩やかな笑いを見せると整備場での自分の定位置たる中央に転がしてある
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