魔刃騎甲──救出 一


「エイハート公国」属国地「小国領アギマス」──西の森近くの村。



「ようし、これでここの村民やつらは全員なんだろうなっ」


 薄汚れた黄の軍服を着た厳つい男の怒鳴りに村広場に集められた村民達は身を震わせている。男の手には刃こぼれな錆び多い細剣が握られ、立たされた村長の喉元に突きつけられている。反攻的な態度を示せば男はいとも容易く村長の喉笛を見せしめと突き破ることだろう。村長の背筋には冷徹な暴力を味わった恐怖に凍る冷たい汗が流れ落ちる。


「は、はい、これで全員です。貴方らには逆らいません。ですから──」

「──誰が口を聞けと言ったんだあっ」


 男の理不尽な蹴りが村長の老いさばらえた身体に容赦なく飛ぶ。蹴飛ばされた村長に村民達そんみんらが駆け寄りうずくまる彼を助け起こす。村の者達は理不尽な暴力で身勝手な略奪を肯定し自分達を無理やり支配しようとする男共に眼だけは恨み向けるが、軍服の男は余裕めいた態度で手にした細剣を気だるげに揺らし口端くちはをいやらしく上げる。


「なんだあ、反抗をしたい者がいるならばあっ、してみればいいんじゃないかぁ。この俺をそこのジジイみたいに殴り飛ばしでもしてみせるがいいっ」


 軍服の男の言う通りに殴り、蹴り飛ばしてやりたい怒る感情は村民達の相違であるのは間違いは無い。恐らく村の男ら全員で組み伏せばどうとでもなる相手だ。


 それが──ひとりであるならばだ。


「どうしたあ、やってみせる度胸も根性も、無いと見えるなぁキサマらにはぁッ」


 余裕に両手を広げ無防備を晒し挑発を繰り返す軍服男の背後には、はあろうかという巨躯の鉄鎧が立ち、村民達に向かって巨大な持ち手短い鉄斧を構え、兜を目深に被ったような頭部で見下ろしてくる。村の者全員でかかったとしてもあんな巨鎧に到底適うはずも無い。それも数は一体や二体では無い、計六体もの巨鎧が村の周りを我がもの顔で闊歩しているのだ。身勝手な略奪をする軍服男達が占拠した村の物資を根こそぎ奪い取ってゆこうとする様をまざまざと見せつけられ、過ぎ去るのを堪えるしかないのだ。命あっての物種だ。命さえあれば村を立て直すことは可能であるのだと言い聞かせるしかないのだ。


「おい、奥の方にまだたんまりと食いもんやらが後生大事に隠してあったぜえっ!」


 最奥の納屋を調べていた軍服仲間の大声に、村民達の表情は凍りつき、対して目の前の軍服男の表情は愉悦に歪んだ。


「おうおう、隠し事はよくねえよなぁ、罰として残りの隠してるもんも全部出してもらおうか、あるよなぁ当然、隠し事をする悪いヤツらだからなぁ、あん? おっと悪いことをすれば罰も与えねえとな、そうだなぁ、見てくれの良さそうな女と金になりそうなガキも何人か連れてかせて貰うぜ」


 細剣を揺らす軍服が冷徹に人とも思えぬ残酷を告げると、村民達の顔は青ざめと怒りが綯交ぜとなり、すがりつくように抗議の声をあげる。


「よしてくれ、俺ん家の財産は持ってても構わねえよっ、だけどッ女子どもはぜってぇダメだッ一体何をしようってんだよっ!」

「食料を渡した分だけでいいだろう! どこまで強欲な悪魔なんだアンタらはッ。ありゃ俺たちの生きてく分なんだ! 根こそぎなんてあんまりなんだよっ」

「本当に人の心が無いのかよ、あんたらにはあッ!」


 だが、その抗議を待っていたかのように細剣を持った男の口端は更に歪み上がる。


「逆らったなキサマら? これは反逆だな、コイツら三人。ようし、見せしめだっ。おい、構わねえ魔刃騎甲ジン・ドールで親子供と判別できねぇくらいにしてやれ、〈ザートン〉の足の裏でジックリとよう。潰れていく顔を拝ませなあッ」


 男の冷酷な命令に村民達の悲鳴が上がる。目の前の魔刃騎甲ジン・ドール〈ザートン〉と呼ばれた巨鎧が一歩前に出て握りしめた巨大な鉄斧を振り、三人に近寄ろうとする村民達を分断させ、抗議の声をあげた三人を足下へと孤立させる。


「あぁ、あ、ぁあぁ──ぁ」


 村の男達が声にならない絶望の表情に、分断された村民達から喉潰す悲鳴があがり続ける。


 不気味見下ろす魔刃騎甲ジン・ドール〈ザートン〉の「電磁投斧ショートアクス」を握りしめた雑に肩を黄色く塗られた巨腕が鉄の軋みをあげてゆっくりと持ち上がる。踏み殺すのではない、もっと残酷な形を村民達に見せつけようと趣向を変更するつもりだ。軍服の男もそちらの方がよいと顔を歪ませて、振り下ろせと細剣を大きく振った。


 瞬間──鈍く──鉄の軋む音を一際強くたて──鋼鉄の巨腕は。


「な──っあ?!」


 、電磁投斧を握りしめた手首関節部が中空を回転していた。


「なに──が、アアッ!?」


 唖然と手首部が無くなった〈ザートン〉を細剣を持った軍服の男は見上げていると上空からのが見えた──瞬間。強い衝撃に軍服男の身体は吹き飛ばされ、地面を転がった。


「ぁ……ぉあ?」


 全身を強く打つ痛みに意識朦朧と見上げる先には、仲間の魔刃騎甲の片腕が赤熱の輝りと共に両断され、目の前で大地に沈み込むように着地体勢を取った水色ライトブルー魔刃騎甲ジン・ドールが赤く発光する鋼刃剣ソードを握りしめ、怒り燃えるような真紅両眼レッドアイを輝かせながら魔刃騎甲ジン・ドールの片脚を鋼刃剣を切り返し斬と落とした。倒れ落ちる敵騎甲ドールを見下ろすように両脚部を踏みしめ、魔刃騎甲は勇とその巨躯を大地に立ち上がらせるのだった。




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