魔刃騎甲──ジン・ドール──

もりくぼの小隊

序章──プロローグ──

プロローグ──語り


 我々の住まう世界とは異なる世界の話をしよう。始めに、この世界に名前は無い。この世界に住まう人々にとって世界はひとつ。彼らの生まれ住まう世界のみ。たとえ他の世界が存在したとしても、干渉しえぬ異なる世界は他に存在せぬも同然なのである。


 次に、この世界にはとある大陸がある。この大陸にも名は無い。人々はこの広大なる大陸以外に大地を知らぬのだ。海の果てに別の大陸があろうという好奇心を持とうとも地平の遥か先に向かおうとは思えぬのだ。大陸の中心で生涯を終えるものは人伝ひとづてに聞いたとしても海という存在さえも理解できないかも知れぬ。


 では、国に名があるかと問われれば、そうだと応えよう。この大陸には、三千幾年の隆盛を誇る公国が存在する。国の名を「エイハート公国」という。光の神を信仰するエイハート本国を中心とし「太陽と平野の小国領アギマス」「森と渓谷の小国領ガルシャ」「氷と雪山の小国領ミブフーラ」「雷と海原の小国領ジオッカ」の四つの属国領からなる公国である。


 そして、エイハート公国の歴史は、戦いの歴史である。エイハート公国の信仰する光の神と異なる暗黒の神を信仰する「マハーデス帝国」との抗争の歴史である。互いの信仰と価値観を共有しえぬ両国の争いは互いを憎み、滅ぼしあわんとする戦乱の世へと発展したのである。


 戦いに明け暮れる日常は人々の心から「平穏」を消し去り、千年以上の時が経とうとしている。そして、近代。戦より生み出された魔導力兵器が新たなる戦乱の熱を世界に広げつつあった。


 そして、千年以上の戦の歴史において三十回目となる一時的な停戦期に入り四年の月日が経つ。物語の始まりは、ここからである。

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